続・陸と海と

拝啓 春爛漫です。

 さて、13世紀のモンゴル帝国からはじまって18世紀に北のロシアへ、そしてミレニアムをこえて南の中国へ。ユーラシアにおける大陸帝国の興亡史はゆっくりとおおきく旋回します。

 ところで、ロシアと中国のあいだには利害の対立がさまざまあるうえ、歴史的な不信感や中央アジアにおける競争ほかで蜜月関係はながくはつづかないだろう、という見方もあるようです。けれども、このような見方は “両国は結託しないはずだ” という希望的観測にしばられているように思えます。

 現在、ロシアと中国は、アメリカに対抗して結託しているとみなければなりません。なぜなら、アメリカのいう民主主義とその理念は、両国の強権的な全体主義政権にとり、おおきな脅威となっているからです。そしてそのことが、いまや両国の姿勢をいっそうかたくなにし、たがいを結束させる最大の要因になっていると私はみています。

 ロシアと中国に共通するのは、モンゴル遊牧帝国の版図からその殻をやぶって発展したことです。同時にここで重要なのは、モンゴルの支配が西ヨーロッパまではおよばなかったということ。そして、アメリカをはじめ欧米諸国は、ルネサンスと大航海時代をへて、市民社会と近代資本主義を形成しながら発展してきました。

 現在、ロシアや中国が、あたかも遊牧帝国の母斑をのこすがごとく、政治的には権威主義、社会的には集団主義と互助精神を特徴とするのに対して、日本をふくむ欧米諸国は、民主主義を政治理念にかかげ、自立した個人による自由な競争を社会の基本原則にしていることはいうまでもありません。

 日本は西側先進国のなかで唯一、大陸の地形につながる海洋に浮かぶ列島国です。私たちは、陸と海とのいまや古典的ともいうべき対立の構図をこえて、アジアと太平洋のひらかれた環、すなわちリンクでなければならない。日本は、ロシアや中国との相互理解のための対話をたやすべきではないと思っています。

 コロナとのたたかいはつづきそうですが、内外情勢調査会から3月18日にリリースされたウェビナー『陸と海と』をベースにして、今後は講演活動にも力をいれていく所存です。
 エコノミストは社会という大きな器に育てていただくものだと思っています。
 ひきつづきご指導、ご鞭撻を賜りますよう、どうぞ宜しくお願いいたします。
 時節柄、ご自愛くださいますように。

心をこめて 

 2021年4月1日

敬具

陸と海と

冠省 皆様には、恙なくお過ごしのことと拝察します。

 さて、3月に内外情勢調査会でおこなうウェビナーの演題は『陸と海と』です。

 「世界史は陸の国に対する海の国のたたかい、海の国に対する陸の国のたたかいの歴史である」と、カール・シュミットは記しています。

 ところで大陸国家、海洋国家というとき、私はユーラシアにおけるモンゴル遊牧帝国と、その支配がおよばなかった西ヨーロッパとの対比を想定しています。そして具体的にはロシアや中国など、15世紀から16世紀にかけてユーラシア内陸部においてモンゴルのDNAの影響をうけて発展した国々を大陸国家と捉えています。ちなみに中国史は明朝においてモンゴル史と交錯する。両者は切り離しては語れないのではないかというのが私の立場です。

 かたや海洋国家とは、同じ時代にルネサンスと大航海時代をへて、近代資本主義の成立へといたるプロセスを共有した西ヨーロッパの国々というように理解しています。これらの国々に共通するのはモンゴルの支配が及ばなかったこと。大航海時代の到来によって、文明の光は海を照らし、陸から遠ざかりました。

 近代資本主義が海上貿易の発達とともに形成されたことは言うまでもありません。そこでは、海を支配する者が貿易を支配する、大洋を制する者が世界を制するのです。
 アメリカは、地政学的には近代資本主義のDNAをうけつぐ海洋国家です。アメリカは世界一の海軍力で、イギリスに代わって海上交通の要衝、シーレーンを抑えることによって世界の覇権を保持してきました。
 これに対して中国は、古代シルクロード貿易に象徴されるように、もともとは陸上交易によって発展した大陸国家。その中国が、いまや世界有数の海運力をそなえて海に漕ぎだしたのが、陸海両面の「一帯一路」構想です。

 海洋の世界は「強大なる中国」とどう向き合うべきか。アフターコロナの最大の課題は、この一点に集約されると私はみています。

 他方、研究調査では、6月に国際経済研究所から『ロシアのゆくえ』を発表する予定です。ロシア論は、『ユーラシア・ダイナミズム』(ミネルヴァ書房、2019年10月)を上梓して以来、温めてきたテーマでもあります。これついては、来月の公式サイトで触れたいと思います。

 エコノミストは社会という大きな器に育てていただくものだと思っています。
 ひきつづきご指導、ご鞭撻を賜りますよう、どうぞ宜しくお願いいたします。
 時節柄、ご自愛くださいますように。

心を込めて 

 2021年3月1日

敬具

プロフィール

西谷 公明(にしたに ともあき)

1953年生まれ

エコノミスト
(合社)N&Rアソシエイツ 代表

(株)国際経済研究所 非常勤フェロー

<略歴>

1980年 早稲田大学政治経済学部卒業

1984年 同大学院経済学研究科博士前期課程修了(国際経済論専攻)

1987年 (株)長銀総合研究所入社

1996年 在ウクライナ日本大使館専門調査員

1999年 帰任、退社。トヨタ自動車(株)入社

2004年 ロシアトヨタ社長、兼モスクワ駐在員室長

2009年 帰任後、BRロシア室長、海外渉外部主査などを経て

2012年 (株)国際経済研究所取締役・理事、シニア・フェロー

2018年 (合社)N&Rアソシエイツ設立、代表就任

著書・寄稿

  • 最新著書

    ユーラシア・ダイナミズム-大陸の胎動を読み解く地政学

    ミネルヴァ書房、2019年10月刊行

    目次

    関係地図
    はしがき-動態的ユーラシア試論
    序 説 モンゴル草原から見たユーラシア
    第一章 変貌するユーラシア
    第二章 シルクロード経済ベルトと中央アジア
    第三章 上海協力機構と西域
    第四章 ロシア、ユーラシア国家の命運
    第五章 胎動する大陸と海の日本
    主要参考文献
    あとがき
    索 引

  • 著 書

    通貨誕生-ウクライナ独立を賭けた闘い

    都市出版、1994年

    目次

    はじめに
    序 章 ウクライナとの出会い
    第一章 ゼロからの国づくり
    第二章 金融のない世界
    第三章 インフレ下の風景
    第四章 地方周遊~東へ西へ
    第五章 ウクライナの悩み
    第六章 通貨確立への道
    第七章 石油は穀物より強し
    終 章 ドンバスの変心とガリツィアの不安
    後 記
    ウクライナ関係年表

  • 寄 稿

    ユーラシアの静かなダイナミズムと海の日本

    未来を創る財団『みらい』2020年3月号

    記事を見る

  • 寄 稿

    ロシア、北の大国からの視界-中国と連携しつつ欧州との関係改善を模索

    時事通信Janet・e-world 2020年1月7日

    記事を見る

  • 寄 稿

    大国の内政に巻き込まれるウクライナ-元コメディアンの新大統領が直面する試練

    時事通信Janet・e-world 2019年10月30日

    記事を見る

  • 寄 稿

    連載:ユーラシア・ダイナミズム-中国とロシア、そして胎動する大陸

    ミネルヴァ通信『究』2017年4月号~2019年5月号

  • 寄 稿

    プーチン再選とユーラシア国家の命運

    『世界』2018年3月号

  • 寄 稿

    モスクワから見た日ロ交渉

    『世界』2016年9月号

  • 寄 稿

    対談:ウクライナの安定へ-世界を動かす日本外交の役割とは何か

    東郷和彦氏との対談、『世界』2014年10月号

  • 寄 稿

    誰にウクライナが救えるか

    『世界』2014年5月号

  • 寄 稿

    ロシア極東開発の地政学

    『世界』2013年3月号

  • 寄 稿

    さらばキエフ、さらば長銀

    『中央公論』1999年1月号

  • 寄 稿

    Considering Russia’s Future

    “Japan SPOTLIGHT” May/June in 2018, Japan Economic Foundation

研究調査

ロシア、ウクライナ研究をオリジナル・グラウンドとし、 ユーラシア全体をキャンバスとする広域的なテーマを中心に、
(株)国際経済研究所に所属して実践的な研究調査をおこなっています。

講 演

"陸と海の地政学"をキーコンセプトとして、ユーラシアの2大国、ロシアと中国の関係を軸に、アフターコロナの世界と日本について積極的に講演活動をおこなっています。

"陸と海の地政学"をキーコンセプトにして、ユーラシアの2大国、ロシアと中国の関係などを中心に、アフターコロナの世界と日本について積極的に講演活動をおこなっています。
2021年は内外情勢調査会(3月15日)からスタートする予定です。

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西谷 公明

合同会社 N&R アソシエイツ 代表

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