米国がウクライナから手を引く日

 拝啓 水ぬるむ朝。近所を流れる石神井川のせせらぎが明るく光っています。
 皆様には、お変わりなく、益々ご清祥のことと拝察いたします。

 もはや勝てないと、誰もがそう見はじめている戦争に、それでもファイティングポーズを崩そうとしない政治指導者に誰も鈴を付けたがりません。

 多数の犠牲を生む人海戦術は、なにもロシアばかりでなく、ウクライナとて同じです。英BBCの報道によれば、手足を切断した傷痍兵の数は2023年前半だけで1万5000千人にのぼります。戦死者の数は「推して知るべし」です。ゼレンスキー大統領には、権力を維持するため、国民を鼓舞して敵国ロシアと戦い続ける以外に選択肢はないのでしょう。

 ゼレンスキー氏はまた、昨年来、軍関係者による汚職の摘発に乗り出してもいます。東部の産業地帯をロシアに奪われて、巨額の軍事費はいまや最大の経済利権と化しています。時機を見計らったかのように小出しにおこなわれる摘発は、米国と欧州連合(EU)による支援をつなぎとめるためのタクティクス(戦術)に見えてなりません(実態は大統領と軍幹部のあいだの権力闘争とみてよいかもしれません)。

 他方米国は、この戦争の事実上の当事者であるにもかかわらず、おおやけには、停戦を決めることができるのはウクライナだけだ、と言って第三者を決め込みます(あるいは、一旦支援を止めて、ゼレンスキー政権の足もとを見ている?)。

 結局、最後は消耗戦が限界に近づいて、凍結された紛争のまま、ゆっくりと萎むように収束していくのではないかと思います。やがて米国が手を引くかもしれない空白を、流動化させることなく、どう安定化させるか。どうやら欧州は厄介な問題を抱えることになりそうです。

 早くも3年目に入ろうとするこの戦争について、私の拙い見方を「崩れないロシア、苦境に立つウクライナ-不条理の前に立ちはだかるリアルな現実」と題して、昨年末に時事通信社Janetへ寄稿しました。
 “戦争とは畢竟、政治の延長でもある”
 30年間、ウクライナを見てきたうえでの感想。肝に銘じたいと思います。
 詳細はこちらをご覧ください。

 また、早稲田大学エクステンションセンターの2月公開講座で、「ウクライナから見たロシア/ロシアから見たウクライナ論」と題して3回にわたって講演します(2月7、14、21日の各水曜日)。
 「ソ連崩壊後」という歴史の時空を建付けにして、私自身が経験したロシアとウクライナの30年を振り返りつつ、この戦争が問う意味とその奥行きを照らしてみたいと思います。
 言うなれば、二つの鏡に映るこの戦争の遠景。
 皆さまのご参加をお待ちしています(開講当日まで受付)。
 詳細はこちらをご覧ください。

 最後に本オフィシャルサイトは、これまでお世話になった、あるいは一期一会のご縁にあずかったすべての皆様に宛てて、日頃のご無沙汰をお詫びしつつ、ご挨拶に代えて毎月1日に更新しています。
 エコノミストは社会という大きな器の中で育てていただくものだと思っています。
 ひきつづき、宜しくご指導、ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。
 季節の変わり目、くれぐれもご自愛くださいますように。

心をこめて

 2024年2月1日

西谷公明


石神井川のせせらぎに水鳥が遊ぶ

ウクライナ、停戦と復興へ向けて舵を切る時

 明けまして、おめでとうございます。

 昨年12月、米国議会と欧州連合(EU)首脳は、相次いでウクライナ支援の追加予算の承認を先送りしました。EU首脳は、支援の承認を見合わせる代わりに、ウクライナとの加盟交渉の開始を決めました。

 ウクライナの一人当たりGDPは4900ドル足らず(侵攻前の2021年、世界銀行)。残念ながら、欧州最貧国の一つです。そのうえ、国土の大半は西欧における市民社会形成の長い歴史を共有せず、汚職と腐敗が社会に滓(おり)のように蔓延(はびこ)ってもいます。加盟の扉を開いたことを時期尚早と見る向きもあるのはそのためです。

 それでも、EUは交渉開始で合意しました。ミシェル大統領が発した祝意のメッセージは、そのままEU首脳がゼレンスキー大統領に宛てた「停戦のすすめ」でもあっただろうと思います。

 不条理な世界ではあります。西側の「支援疲れ」もあるでしょう。しかし、EU首脳が示した行動は、このまま戦争を続けた場合のリスクを見越したうえで、この国を「欧州の火薬庫」として残さないための意思表明でもありました。ウクライナの政治指導者が、停戦と復興へ向けて舵を切る時が近づいているように思います。

 早くも3年目に入ろうとするこの戦争について、私の拙い見方を「崩れないロシア、苦境に立つウクライナ-不条理の前に立ちはだかるリアルな現実」と題して、昨年末に時事通信社Janetへ寄稿しました(23.12.25配信)。また、今後の見通しを新年の現代ビジネス(講談社)で書きました(24.1.1掲載予定)。
 “戦争とは畢竟、政治の延長でもある”
 長い間、ウクライナを見てきたうえでの感想です。
 ご笑覧頂ければ幸いです
詳細はこちらをご覧ください。

 他方、この戦争の「遠景」ともいうべきもの(感情論の波に乗ることなく冷静に観察する)を、年初に予定される二つの講演で披露する予定です。

 ひとつは、中京大学社会科学研究所における講演「国家と経済-ウクライナ独立30年後の視座」(1月16日)で、30年前に拙著『通貨誕生-ウクライナ独立を賭けた闘い』(1994年3月、都市出版)を上梓してくださった現中京大学国際学部教授の佐道明広氏(日本の政治外交史、戦後日本の防衛政策がご専門)の計らいによる企画。
詳細はこちらをご覧ください。

 もうひとつは、早稲田大学エクステンションセンターにおける公開講座で、「ウクライナから見たロシア/ロシアから見たウクライナ論」と題して、3回にわたって講演します(2月7、14、21日の各水曜日)。私自身が経験したロシアとウクライナの30年を振り返りつつ、また時にビジネスにおける苦労談や失敗談も交えつつ、この戦争が問う意味と奥行きを照らしてみたいと思います。
 ロシアによるウクライナ侵攻とその帰趨は、私たちが生きる時代を映す鏡でもあります。皆さまのご参加をお待ちしています。
詳細はこちらをご覧ください。

 エコノミストは社会という大きな器の中で育てていただくものだと思っています。ソロのエコノミストとして、人と群れず、決してつるまず、引き続き執筆・講演を重ねて参る所存です。
 本年も、どうぞ宜しくご指導、ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。
 皆さまにとり、素晴らしい一年となりますように!

心をこめて

 2024年 元旦

西谷公明


SF Twin Peaks からダウンタウンを望む

プロフィール

西谷 公明(にしたに ともあき)

1953年生まれ

エコノミスト
(合社)N&Rアソシエイツ 代表

<略歴>

1980年 早稲田大学政治経済学部卒業

1984年 同大学院経済学研究科博士前期課程修了(国際経済論専攻)

1987年 (株)長銀総合研究所入社

1996年 在ウクライナ日本大使館専門調査員

1999年 帰任、退社。トヨタ自動車(株)入社

2004年 ロシアトヨタ社長、兼モスクワ駐在員室長

2009年 帰任後、BRロシア室長、海外渉外部主査などを経て

2013年 (株)国際経済研究所取締役・理事、シニア・フェロー

2018年 (合社)N&Rアソシエイツ設立、代表就任

What's New

最新ニュース

  • コラボ

    中国ウォッチ(17)

    台湾の長い影~三期目を迎える民進党政権と忍び寄る「オランダ病」

    記事を見る

  • 寄 稿

    「侵攻二度目の冬、ウクライナのいまはー停戦、復興へ向けて舵を切るとき」

    現代ビジネス 2024年1月2日

    記事を見る

  • コラボ

    中国ウォッチ(16)

    産能過剰の中国EV業界~岐路に立つ在華日本メーカー

    記事を見る

  • 寄 稿

    「侵攻2度目の冬、プーチン氏の今」

    時事通信『コメントライナー』 2023年12月19日

    記事を見る

  • 寄 稿

    「いまや自壊寸前のウクライナ、プーチンは待つだけ!」

    現代ビジネス 2023年12月20日

    記事を見る

  • 寄 稿

    「崩れないロシア、苦境に立つウクライナ-不条理の前に立ちはだかるリアルな現実」

    時事通信社Janet 2023年12月25日

    記事を見る

著 書

  • 復 刊

    ウクライナ 通貨誕生-
    独立の命運を賭けた闘い

    岩波現代文庫、2023年1月

  • 著 書

    ロシアトヨタ戦記

    中央公論新社、2021年12月

    詳細を見る

    目次

    プロローグ
    第一章 ロシア進出
    第二章 未成熟社会
    第三章 一燈を提げて行く
    間奏曲 シベリア鉄道紀行譚
    第四章 リーマンショック、その後
    エピローグ
    あとがき

  • 著 書

    ユーラシア・ダイナミズム-
    大陸の胎動を読み解く地政学

    ミネルヴァ書房、2019年10月

    詳細を見る

    目次

    関係地図
    はしがき-動態的ユーラシア試論
    序 説 モンゴル草原から見たユーラシア
    第一章 変貌するユーラシア
    第二章 シルクロード経済ベルトと中央アジア
    第三章 上海協力機構と西域
    第四章 ロシア、ユーラシア国家の命運
    第五章 胎動する大陸と海の日本
    主要参考文献
    あとがき
    索 引

  • 著 書

    通貨誕生-
    ウクライナ独立を賭けた闘い

    都市出版、1994年3月

    詳細を見る

    目次

    はじめに
    序 章 ウクライナとの出会い
    第一章 ゼロからの国づくり
    第二章 金融のない世界
    第三章 インフレ下の風景
    第四章 地方周遊~東へ西へ
    第五章 ウクライナの悩み
    第六章 通貨確立への道
    第七章 石油は穀物より強し
    終 章 ドンバスの変心とガリツィアの不安
    後 記
    ウクライナ関係年表

研究調査

ロシア、ウクライナ研究をオリジナル・グラウンドとし、 ユーラシア全体をキャンバスとする広域的なテーマを中心にして実践的な研究調査をおこなっています。

講 演

ロシア情勢、ウクライナ情勢を中心に、現地での経験談や苦労談などを織り交ぜながら、わかりやすい講演を心がけています。最近の演題例は次のとおりです。

「ウクライナ戦争-独立から30年後の現在と今後の展望」
「オンリー・イエスタデイ-我が体験的ロシア論」

ロシア情勢、ウクライナ情勢を中心に、現地での経験談や苦労談などを織り交ぜながら、わかりやすい講演を心がけています。最近の演題例は次のとおりです。

「わが体験的ロシア・ウクライナ論-砲声止まぬユーラシアを想う-」
「『陸と海の地政学』から紐解く-日本経済の今後と企業経営の課題-」

CONTACT ME

西谷 公明

合同会社 N&R アソシエイツ 代表

講演のご依頼等、
各種お問い合わせはこちらまで

Email:nr-associates@mbr.nifty.com

つぶやき