大寒波と総選挙

 前略 地球温暖化のはずではなかったか、と思います。

 天文学の世界には、氷期と間氷期(=温暖期)が10万年周期で交代すると説く気候変動理論がある由。有限の時を生きる人間社会がつくった温室効果ガスの影響はそれとして、かたや宇宙という無限の空間と永遠の時間のなかで、太陽という、とてつもなく巨大で、無限のエネルギーを放ちつづける天体の力を思わざるをえません。

 一方、大寒波のもとでおこなわれる総選挙では、折からの物価高対策として、消費減税が大きな争点になっています。
 しかしながら消費税は、持続ある社会保障と一体の財源として制度化されました。いわば、国民が将来にわたって生活の安心を得るための基盤です。安易に手をつけるべきではないし、その必要もありません。

 同時に、すべての高齢者は、現役世代のお世話になっていることを忘れてはなりません。深沢七郎著『楢山節考』に出てくる「おりんさん」のことを思い起こします。若い世代は、給与がインフレで目減りすること、将来の年金も当てにできないことをよくわかっています。せめて、彼もしくは彼女たちをさまざまに応援し、希望の持てる将来を設計できるように力を貸すことこそが、私たち高齢者の役割であるべきと心得ます。

 そして、高齢者のもうひとつの役割が、政治の錘(おもり)になることです。

 自民党総裁で首相の高市早苗氏は、大きな「政策転換」をおこなうと公言しています。私は、この度の解散・総選挙の真の争点は、⑴財政拡張、⑵安全保障政策の転換、⑶憲法改正にあるとみています。
 つまり、それは故安倍晋三氏が途半ばにしてやり残したことの継承です。

 この3つの政策転換の是非を問う。多くの国民にとってそうではなくても、少なくとも政治家、高市早苗にとってはそういうことなのだろうと思います。
 だからこそ、彼女は「日本の総理が高市早苗でよいかどうかを問う」と言っているし、それに「進退を賭ける」とまで言い切っているのです(この発言には驚かされました)。この正月、彼女が故人の遺影を携えて伊勢神宮を参詣したことは象徴的でもありました。

 けれども、とうにピークアウトし(安い円と内向きの社会が象徴しています)、余力の乏しい日本経済にとり、財政のいっそうの拡張は大きな賭けとなるにちがいありません。その先に待つのは、活力のない高インフレの経済です。
 プライマリーバランス(歳入と、国債の利払いを除いた歳出の均衡)の維持こそは、財政規律の根幹でありつづけるべきだし、防衛インフラの強化は必要だとしても、憲法を改正する必要はないと考えます。憲法改正は、その第9条を特別な柱とする日本の国家像の修正を意味します。

 他方、高市首相は、「台湾有事」を日本の「存立基盤危機」であると、さきの国会で言ってのけ、日本の国益を損ねました。
 彼女にとり、選挙に勝って国論を固めつつ、大国アメリカとの揺るぎない同盟を確認して、もうひとつの大国中国と向き合っていく以外に、いまさら選択肢はないのかもしれません。が、いずれにせよ、これから長期間、激動が予想され、変転する世界のなかで、日中関係が悪化することはあっても改善することはないはずです。

 「日本の総理が高市早苗でよいですか?」 「NO!」

 私自身は、「チームみらい」を応援しています。「未来は明るいと信じられる国へ」、そういう政治を切に希求する次第です。

 最後に、昨年末、脇田成氏(東京都立大学教授)から、ご高著『いまどうするか日本経済』(ちくま新書)を献本いただきました。

 面識のない私宛になぜだろう?読み進めていくうちに、理由がわかりました。ウクライナでの経験が、通貨にまつわるエピソードとして記されていたからです。拙著『ウクライナ通貨誕生-独立の命運を賭けた闘い』(岩波現代文庫)が、参考文献として挙げられていたことも光栄でした。この場を借りて、お礼申し上げます。

 本オフィシャルサイトは、これまでお世話になった、あるいは一期一会のご縁に与かったすべての皆さまに宛てて、日頃のご無沙汰をお詫びしつつ、毎月1日にご挨拶に代えて更新しています。

 「日本人は、また一から出直すしかないのだぞ」、相談役の声が聞こえます。
 凍てつく日々、どうぞご自愛くださいますように。

敬具

2026年2月1日

西谷公明


田北志のぶさんのバレーを観る
(1月14日、アプリコ・ホールにて)

空と雲と、風の歌を聴きながら

 明けまして、おめでとうございます。

 「どうなっとるんだ」と、電話の声はボソッと言いました。相談役から突然電話があったのは、2022年2月半ばのある晩のことでした。話題はウクライナ情勢のことでした。

 前年12月、私は 『ロシアトヨタ戦記』 を中央公論新社から上梓していました。日本の「失われた30年」という視界のなかで、私が体験したロシアにおけるトヨタと、その一時代について書きました。
 「君の本を読んだぞ」とも、言っていました。電話の理由が分かりました。叱られなくて、ほっとしました。ほどなくしてロシアのウクライナ侵攻が始まって、私の「戦記」にはミソがつきましたが。

 「まもなく米ロ首脳会談が3年ぶりにおこなわれ、ウクライナ戦争は多分、収束へ向かうでしょう。<中略>この上、ウクライナに必要な支援は、もはや戦うための武器ではありません。平穏な日々と復興へ向けた支えです。そして、西側の政治指導者に求められるのは、ロシアのプーチン大統領との対話です」

 開戦からほぼ3年が過ぎた昨年元旦、私は本サイトにこう記しました。残念ながら、その期待は外れ、戦争は続きました。

 一体全体、どうしてこんなことになってしまったのだろう、と思います。
 ロシアのプーチン大統領は、図らずも国境の向こうに敵対国をつくりました。しかも、大きなナショナリズムの塊(かたまり)のような国として。

 歴史上、すべての戦争は領土をめぐって争われてきました。ウクライナ人の報復主義は世代を越えて引き継がれるでしょう。それは、幾世代ものロシアの政治指導者にとり、脅威であり続けるにちがいありません。プーチン氏が「根本原因の除去」を主張するのも、そのためです。

 他方、4年近く前のロシアのウクライナ侵攻を、西側はロシアの野望に対する「抑止の失敗」と見做し、かたやロシアは、冷戦終結後のヨーロッパにおける安全保障秩序の構築を無視した「西側の傲慢さ」に、この戦争の責任を問うています。

 互いの認識の違いの溝は、「断絶の壁」と化しました。プーチン氏が、戦争目標を後退させる可能性は低いでしょう。したがって、その限りで砲声は止みません。それが、多くのロシア人の望むことではないとしても。

 はたして、ヨーロッパは「はざまの国」を守れるだろうか、とも思います。
 ヨーロッパにとり、ウクライナ和平の行方は、ヨーロッパ自身の安全保障をどうするかという問題と同義です。

 アメリカは、大西洋の向こうの戦争と距離を置きました。ヨーロッパは、域内における政治の不安定化と経済の停滞に沈んでいます。
 私は、まずはヨーロッパがロシアとの対話を再開し、善隣関係の再構築へ向けてリセットすることこそが、ヨーロッパ自身の利益になるし、「はざまの国」 ウクライナに永続的な平和と安定をもたらす道でもあると考えています。

 ゼレンスキー大統領自身も、国民の審判を仰ぐべき時が近そうです。戒厳令下、大統領の任期はすでに1年半以上にわたって延長され、最高会議議員の選挙も延期されてきました。

 そもそも、「銃」も「パン」も西側頼みの抗戦を、長く続けることには限界がありました。国の現実をみれば、支援が滞るときが、終わりの始まりでもあったのですから。ロシアと戦うことだけが政治のすべてではないはずですし、国民を守ることを意味しないのは言うまでもありません。

 昨年暮れに、ネットメディアへ寄稿しました。1年前に書いた寄稿「トランプ流『リアリズム』が世界を覆う時」の続編ともいうべき小論。ご笑覧賜れば幸いです。
 「ウクライナ戦争:霞む正義か、希望の和平か」
 (時事通信社Janet 25.12.19配信)詳細はこちら

 本オフィシャルサイトは、これまでお世話になった、あるいは一期一会のご縁に与かったすべての皆さまに宛てて、日頃のご無沙汰をお詫びしつつ、毎月1日にご挨拶に代えて更新しています。

 皆様はどうされておられるか、と思います。日本は大丈夫か、とも思います。
 おかげさまで、昨年1月に骨折した私の膝の怪我も、どうやら回復しました。春先まで、しばらく怠けていた執筆に専念し、その後はもうしばらく、現場主義の旅を続ける考えです。少しのんびり、空と雲と、風の歌を聴きながら。

 皆さまにとり、素晴らしい一年となりますように。
 本年も、どうぞ宜しくお願い申し上げます。

心をこめて

 2026年 元旦

西谷公明


ノーベル兄弟の邸宅跡を訪れる
(2025年9月、バクーにて)

プロフィール

西谷 公明(にしたに ともあき)

1953年生まれ

エコノミスト
(合社)N&Rアソシエイツ 代表

<略歴>

1980年 早稲田大学政治経済学部卒業

1984年 同大学院経済学研究科博士前期課程修了(国際経済論専攻)

1987年 (株)長銀総合研究所入社

1996年 在ウクライナ日本大使館専門調査員

1999年 帰任、退社。トヨタ自動車(株)入社

2004年 ロシアトヨタ社長、兼モスクワ駐在員室長

2009年 帰任後、BRロシア室長、海外渉外部主査などを経て

2013年 (株)国際経済研究所取締役・理事、シニア・フェロー

2018年 (合社)N&Rアソシエイツ設立、代表就任

What's New

最新ニュース

  • コラボ

    中国ウォッチ(41)

    日中関係悪化と日本企業の戦略

    記事を見る

  • 講 演

    JOIグローバルトピックセミナー

    「ロシア・ウクライナ戦争-霞む和平」(抄録)

    『海外投融資』(2026年1月号)

    詳細はこちら

  • コラボ

    中国ウォッチ(40)

    「東昇西落」の世界~2026 年を考える

    記事を見る

  • 寄 稿

    かすむ正義か、希望の和平か─鍵はウクライナの戦時財源

    時事通信社「Janet・e-World」 2025年12月19日

    詳細はこちら

  • 講 演

    JOIグローバルトピックセミナー

    「ロシア・ウクライナ戦争-霞む和平」

    2025年11月13日 海外投融資情報財団

  • 講 演

    「誰にウクライナが救えるか-『はざまの国』の戦争と平和について考える」

    2025年11月7日,21日,28日,12月5日,12日(5回シリーズ)

    詳細はこちら

著 書

  • ウクライナ 通貨誕生-
    復 刊

    ウクライナ 通貨誕生-
    独立の命運を賭けた闘い

    岩波現代文庫、2023年1月

  • ロシアトヨタ戦記

    著 書

    ロシアトヨタ戦記

    中央公論新社、2021年12月

    詳細を見る

    目次

    プロローグ
    第一章 ロシア進出
    第二章 未成熟社会
    第三章 一燈を提げて行く
    間奏曲 シベリア鉄道紀行譚
    第四章 リーマンショック、その後
    エピローグ
    あとがき

  • ユーラシア・ダイナミズム-

    著 書

    ユーラシア・ダイナミズム-
    大陸の胎動を読み解く地政学

    ミネルヴァ書房、2019年10月

    詳細を見る

    目次

    関係地図
    はしがき-動態的ユーラシア試論
    序 説 モンゴル草原から見たユーラシア
    第一章 変貌するユーラシア
    第二章 シルクロード経済ベルトと中央アジア
    第三章 上海協力機構と西域
    第四章 ロシア、ユーラシア国家の命運
    第五章 胎動する大陸と海の日本
    主要参考文献
    あとがき
    索 引

  • 通貨誕生-ウクライナ独立を賭けた闘い

    著 書

    通貨誕生-
    ウクライナ独立を賭けた闘い

    都市出版、1994年3月

    詳細を見る

    目次

    はじめに
    序 章 ウクライナとの出会い
    第一章 ゼロからの国づくり
    第二章 金融のない世界
    第三章 インフレ下の風景
    第四章 地方周遊~東へ西へ
    第五章 ウクライナの悩み
    第六章 通貨確立への道
    第七章 石油は穀物より強し
    終 章 ドンバスの変心とガリツィアの不安
    後 記
    ウクライナ関係年表

研究調査

ロシア、ウクライナ研究をオリジナル・グラウンドとし、 ユーラシア全体をキャンバスとする広域的なテーマを中心にして実践的な研究調査をおこなっています。

講 演

「ロシアとウクライナ」を軸として、冷戦終結後の30年を振り返りつつ、(一社)内外情勢調査会をはじめさまざまな場所で、心に響く講演を心がけて発信しています。

西谷公明オフィシャルサイト
Tomoaki Nishitani official site

つぶやき