“中洋”の国々を思う

拝啓 すすきの穂が銀色に光っていました。
皆様には、恙なくお過ごしのことと拝察いたします。

 アフガニスタンの首都カブールが“無血落城”し、タリバンがおよそ20年ぶりに政権を奪還した由。
 撤退する側(“テロとの戦い”を掲げて派兵したアメリカとNATO諸国)の報道ぶりをみていると、いまやこの国を待ち受けるのは、過激なイスラム思想による混乱と恐怖政治だけのように思えてくる。
 けれども、それはどうか?アフガニスタンの人々の認識は、それとは少しちがうのかもしれません。

 長年アフガニスタンで援助活動をつづけ、2019年12月に何者かの凶弾によって斃れた日本人医師、中村哲氏(享年73)は、かつて日経ビジネスのインタビューに答えてこう述べています。

 タリバンは訳が分からない狂信的集団のように言われますが、我々がアフガニスタン国内に入ってみると全然違う。田舎を基盤とする政権で、いろいろな布告も今まであった慣習を明文化したという感じ。少なくとも農民・貧民層にはほとんど違和感はないようです。・・・
 我々の活動については、タリバンは圧力を加えるどころか、むしろ守ってくれる。例えば、井戸を掘る際、現地で意図が通じない人がいると、タリバンが間に入って安全を確保してくれているんです。・・・

 他方、これもいささか古いデータになりますが、2016年春さきに日本外務省が中央アジア(トルキスタンを除く4ヵ国)でおこなった興味深い世論調査結果があります。
 喜ばしいのは、中央アジアの人々が遠い日本へ寄せる信頼と期待の大きさです。

  • もっとも信頼できる国は次のうちどれですか?
  • ロシア61%、日本11%、中国5%。
  • 重要なパートナーは次の国のうちどれですか?(複数選択)
  • ロシア75%、中国49%、日本25%。

 日本は信頼できる重要なパートナーとして期待されているのです。調査結果はまた、アメリカやヨーロッパの国々への期待が小さいことも示しています。
 アフガニスタンも、どうやら日本の援助に期待を寄せているらしい。日本外交は、こういう国々をもっと大切にしなければなりません。

 エコノミストは社会という大きな器に育てていただくものだと思っています。
 ひきつづきご指導、ご鞭撻を賜りますよう、どうぞ宜しくお願いいたします。
 時節柄、ご自愛くださいますように。

心をこめて 

 2021年9月1日

2021、日本の夏

残暑、お見舞い申し上げます。
皆様には、恙なくお過ごしのことと拝察いたします。

 7月末、内外情勢調査会に招かれて下関と北九州で講演しました。下関港のあたりは古くから唐戸、つまり“大陸への扉”と言い慣わされている由。関門海峡は美しい海でした。海峡からユーラシアを見晴るかす。まさに『陸と海と』のテーマにふさわしい風景でもありました。

 世界史は、ときに起伏をみせながら、ゆるやかにおおきく旋回します。
 歴史の内なるエネルギーには音がありません。およそ歴史のダイナミズムと呼ぶべき現象は、あるとき静かにはじまって、ながい時間をかけてゆるやかに進行するものではないかと思っています。そしてある日、気づいたとき、新しい現実としてわたしたちの眼前にあらわれる。

 また歴史には、そこを過ぎると、もはや引き返すことのできない通過点のような局面があるのではないかと考えます。歴史は繰り返すとは言うけれど、引き返すことはできない。それは帰らざる河であるし、後戻りのできない一本道でもあるのです。

 アフターリーマンの世界経済を中国がけん引したように、アフターコロナのそれも中国がリードするものとみられています。2021年上半期、中国経済は対前年同期比12.7%(GDP成長率)という驚くべきペースで回復しています。

 ニクソン大統領が電撃的な訪中を果たし、米中が国交を回復したのは50年前のこと。いまや中国は、アメリカにとり最大の挑戦者ともくされるまでに強大化しました。数年先には、名目GDPの大きさで、中国がアメリカを追い抜いて世界一になるだろうと見通されています。パックスアメリカーナの晩鐘がきこえなくもありません。

 かたや、日本はオリンピック・パラリンピックたけなわです。新型コロナ感染症禍の外出自粛がつづいて気が晴れないなかで、アスリートたちの活躍はとにかく明るいニュースではあります。
 けれども、祭りが終わったときには、アフターコロナの現実が待っています。
 日本の政治と経済、社会をどう建て直すか?その道のりはきっと遠いはずです。
 なぜなら、ここにいたるまで無為にすごしたのと同じだけの長い時間がかかるだろうから。

 エコノミストは社会という大きな器に育てていただくものだと思っています。
 ひきつづきご指導、ご鞭撻を賜りますよう、どうぞ宜しくお願いいたします。
 時節柄、ご自愛くださいますように。

心をこめて 

 2021年8月1日

プロフィール

西谷 公明(にしたに ともあき)

1953年生まれ

エコノミスト
(合社)N&Rアソシエイツ 代表

(株)国際経済研究所 非常勤フェロー

<略歴>

1980年 早稲田大学政治経済学部卒業

1984年 同大学院経済学研究科博士前期課程修了(国際経済論専攻)

1987年 (株)長銀総合研究所入社

1996年 在ウクライナ日本大使館専門調査員

1999年 帰任、退社。トヨタ自動車(株)入社

2004年 ロシアトヨタ社長、兼モスクワ駐在員室長

2009年 帰任後、BRロシア室長、海外渉外部主査などを経て

2012年 (株)国際経済研究所取締役・理事、シニア・フェロー

2018年 (合社)N&Rアソシエイツ設立、代表就任

著書・寄稿

  • 最新著書

    ユーラシア・ダイナミズム-大陸の胎動を読み解く地政学

    ミネルヴァ書房、2019年10月刊行

    目次

    関係地図
    はしがき-動態的ユーラシア試論
    序 説 モンゴル草原から見たユーラシア
    第一章 変貌するユーラシア
    第二章 シルクロード経済ベルトと中央アジア
    第三章 上海協力機構と西域
    第四章 ロシア、ユーラシア国家の命運
    第五章 胎動する大陸と海の日本
    主要参考文献
    あとがき
    索 引

  • 著 書

    通貨誕生-ウクライナ独立を賭けた闘い

    都市出版、1994年

    目次

    はじめに
    序 章 ウクライナとの出会い
    第一章 ゼロからの国づくり
    第二章 金融のない世界
    第三章 インフレ下の風景
    第四章 地方周遊~東へ西へ
    第五章 ウクライナの悩み
    第六章 通貨確立への道
    第七章 石油は穀物より強し
    終 章 ドンバスの変心とガリツィアの不安
    後 記
    ウクライナ関係年表

  • 寄 稿

    ユーラシアの静かなダイナミズムと海の日本

    未来を創る財団『みらい』2020年3月号

    記事を見る

  • 寄 稿

    ロシア、北の大国からの視界-中国と連携しつつ欧州との関係改善を模索

    時事通信Janet・e-world 2020年1月7日

    記事を見る

  • 寄 稿

    大国の内政に巻き込まれるウクライナ-元コメディアンの新大統領が直面する試練

    時事通信Janet・e-world 2019年10月30日

    記事を見る

  • 寄 稿

    連載:ユーラシア・ダイナミズム-中国とロシア、そして胎動する大陸

    ミネルヴァ通信『究』2017年4月号~2019年5月号

  • 寄 稿

    プーチン再選とユーラシア国家の命運

    『世界』2018年3月号

  • 寄 稿

    モスクワから見た日ロ交渉

    『世界』2016年9月号

  • 寄 稿

    対談:ウクライナの安定へ-世界を動かす日本外交の役割とは何か

    東郷和彦氏との対談、『世界』2014年10月号

  • 寄 稿

    誰にウクライナが救えるか

    『世界』2014年5月号

  • 寄 稿

    ロシア極東開発の地政学

    『世界』2013年3月号

  • 寄 稿

    さらばキエフ、さらば長銀

    『中央公論』1999年1月号

  • 寄 稿

    Considering Russia’s Future

    “Japan SPOTLIGHT” May/June in 2018, Japan Economic Foundation

研究調査

ロシア、ウクライナ研究をオリジナル・グラウンドとし、 ユーラシア全体をキャンバスとする広域的なテーマを中心に、
(株)国際経済研究所に所属して実践的な研究調査をおこなっています。

講 演

"陸と海の地政学"をキーコンセプトとして、ユーラシアの2大国、ロシアと中国の関係を軸に、アフターコロナの世界と日本について積極的に講演活動をおこなっています。

"陸と海の地政学"をキーコンセプトにして、ユーラシアの2大国、ロシアと中国の関係などを中心に、アフターコロナの世界と日本について積極的に講演活動をおこなっています。
2021年は内外情勢調査会(3月15日)からスタートする予定です。

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西谷 公明

合同会社 N&R アソシエイツ 代表

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