中国車が“大陸”を席捲する日

前略、5月中旬、中央アジアを訪問しました。


Hyundai Trans Kazakhstan にて

 写真はカザフスタンの商都アルマティ郊外に建つ韓国Hyundaiの自動車工場です。Astana Motors(Nurlan Smagulov氏経営)が1億ドル(約150億円)を投じて建設。2023年、ここから4万9000台のHyundai車が出荷されました。

 同国の新車市場は23年に20万台弱。かつて日本のトヨタが中古車人気の延長上で圧倒的なシェアを誇っていたことも、今は昔。韓国車(Hyundai & Kia)が市場の40%近くを占めて、かつ最近では中国車が急速に台頭しているのです。

 隣接地では、その中国3ブランド(日本ではほとんど知られていないChangan, Chery, Haval)を生産する巨大工場の建設工事が急ピッチで進んでいました(投資額3.6億ドル、敷地面積20ha)。竣工した暁には(25年春予定)、年間9万台の中国車が生産される由。国内市場の大きさを鑑みれば、関税同盟で一体の隣国ロシアへの輸出を想定していることは明らかです。

 中央アジアのもうひとつの大国ウズベキスタンでは、米国Teslaに代わって今や世界最大のEVメーカーとなった中国BYDが、国営UZ-Avtoとの間で年産30万台規模の合弁工場を建設することで合意しています。
 同国では、Chevrolet(UZ-Avto)とBYDが並存し、将来的には国内市場のみでなく、近隣のロシアをはじめ中央アジア、アフガニスタン(「武装勢力」タリバンの国です)、コーカサスなどへ輸出されることになります。BYDはコーカサスでも積極的に販売ネットワークを広げています。

 かたや北のロシアで、日本や欧米メーカーが抜けた穴を国産のLadaと中国車が埋めていることは言うまでもありません。
 ロシアにおける23年の新車販売台数は113万台でしたが、その内、中国車が45万台を占めて、市場シェアは40%を超えました。ウクライナ侵攻まで日本や韓国、欧米車を扱っていた販売店の多くが、今では中国ブランドに看板を変えました。

 かくして、ユーラシアを中国車が席捲します。ここでは中国との対立や、中国車に対する言いがかりに似た制裁関税の声は聴かれません。
 しかも、車そのものがかなりよくなっています(試乗してみるとわかります)。中国製品の品質や性能は日進月歩で向上しています。そして、EVバッテリーのグローバルなサプライチェーンの大半も、中国は押さえました。

 習近平国家主席がNEV(新エネルギー車)で「自動車製造強国」をめざすと宣言したのは、西のウクライナでマイダン政変が起き、ドンバスで内戦がはじまった2014年のことでした。それから10年が過ぎて、新型コロナ禍の霧が晴れた今、大陸に中国を中心とする「もうひとつの世界」が確実に形成されつつあるとの思いを新たにした次第です。

 本オフィシャルサイトは、これまでお世話になった、あるいは一期一会のご縁にあずかったすべての皆様に宛てて、日頃のご無沙汰をお詫びしつつ、月のはじめにご挨拶に代えて更新しています。
 エコノミストは、社会という大きな器に育てていただくものだと思っています。
 引き続き、宜しくご指導、ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。

 時節柄、どうぞご自愛くださいますように。

草々

 2024年6月1日

西谷公明


アルマティ市内から天山を望む

米中の狭間で日本はいかに処すべきか

 汗ばむ初夏、皆さまには恙なくお過ごしのことと拝察します。

 『中国ウォッチ』をお願いしているエコノミストの結城隆さん(多摩大学客員教授)が、タイムリーな論考を寄せてくださいました。

 「米中の狭間で日本はいかに処すべきか」 詳細はこちら

 米中の高官どうしの交流は、太平洋を越えて(つまり、日本を飛び越えて)活発におこなわれています。両国は激しく覇権を競っていますが、リスク管理を含めた多層的な意思疎通を怠りません。この二大国が貿易・投資と金融で相互に固く結ばれて、世界経済の車軸を回していることを考えれば、むしろ当然のこととも言えるでしょう。

 けれども、それに引き換え、ここへきての日中の政治的な距離感の広がりには危うさすら覚えます。いまでは名立たる企業までも、対中ビジネスをどうするか、ワシントンの顔色を窺いながら、立ちすくんでいる感が否めません。

 ゼロコロナ政策解除後、中国政府はヨーロッパの13ヵ国とアジアの2カ国に対して最長15日間のビザなし入国を再開する一方で、日本は蚊帳の外に置かれたままです。もはや日本が相手にされなくなっているせいだとしたら、これを放置しておいてはなりません。

 他方、ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以来、日本では「今日のウクライナは明日の台湾」、「西のウクライナは東の台湾」などと声高に主張する人たちがおおぜいいて、主要メディアの論調も中国の海洋進出に対する警戒と、近い将来の台湾有事(?)を想定した防衛力の強化と安全保障をめぐる議論に流されているように思われます。

 しかしながら、ウクライナ情勢から日本が学ぶべきことがあるとすれば、それは次の2点であるべきです。

 僭越ながら、ロシアとウクライナの関係を30年間、見てきた上での感想です。

 米国には、もっとしっかりしてもらわないと困りますが、日本は、米国が企図する覇権対立の罠に嵌ってはなりません(バイデンでもトランプでも同じです)。背景にあるのは米国社会そのものの保守化です。「分断」という崖の淵に、日本の未来を見出すことはできません(ドイツを見てください)。
 中国の懐にまっすぐ飛び込んでいくような、肚の据わった<国士>はいないものか、と思います。

 本オフィシャルサイトは、これまでお世話になった、あるいは一期一会のご縁にあずかったすべての皆様に宛てて、日頃のご無沙汰をお詫びしつつ、月のはじめにご挨拶に代えて更新しています。
 講談社『現代ビジネス』へ寄稿しました(5月はじめ掲載予定)。
 「ロシア経済、崩れない理由」
 危機管理とは実務なり。ご笑覧頂ければ幸いです。

 5月中旬に中央アジアのカザフスタンを訪れる予定です。
 時節柄、どうぞご自愛くださいますように。

心を込めて

 2024年5月2日

西谷公明


石神井川沿いの小径につつじが咲く

プロフィール

西谷 公明(にしたに ともあき)

1953年生まれ

エコノミスト
(合社)N&Rアソシエイツ 代表

<略歴>

1980年 早稲田大学政治経済学部卒業

1984年 同大学院経済学研究科博士前期課程修了(国際経済論専攻)

1987年 (株)長銀総合研究所入社

1996年 在ウクライナ日本大使館専門調査員

1999年 帰任、退社。トヨタ自動車(株)入社

2004年 ロシアトヨタ社長、兼モスクワ駐在員室長

2009年 帰任後、BRロシア室長、海外渉外部主査などを経て

2013年 (株)国際経済研究所取締役・理事、シニア・フェロー

2018年 (合社)N&Rアソシエイツ設立、代表就任

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  • 講 演

    わが体験的ロシア・ウクライナ論

    (一社)内外情勢調査会 群馬/桐生支部懇談会

    2024年4月18-19日 群馬ロイヤルホテル/ミツバ企業年金基金会館

    概要はこちら

著 書

  • 復 刊

    ウクライナ 通貨誕生-
    独立の命運を賭けた闘い

    岩波現代文庫、2023年1月

  • 著 書

    ロシアトヨタ戦記

    中央公論新社、2021年12月

    詳細を見る

    目次

    プロローグ
    第一章 ロシア進出
    第二章 未成熟社会
    第三章 一燈を提げて行く
    間奏曲 シベリア鉄道紀行譚
    第四章 リーマンショック、その後
    エピローグ
    あとがき

  • 著 書

    ユーラシア・ダイナミズム-
    大陸の胎動を読み解く地政学

    ミネルヴァ書房、2019年10月

    詳細を見る

    目次

    関係地図
    はしがき-動態的ユーラシア試論
    序 説 モンゴル草原から見たユーラシア
    第一章 変貌するユーラシア
    第二章 シルクロード経済ベルトと中央アジア
    第三章 上海協力機構と西域
    第四章 ロシア、ユーラシア国家の命運
    第五章 胎動する大陸と海の日本
    主要参考文献
    あとがき
    索 引

  • 著 書

    通貨誕生-
    ウクライナ独立を賭けた闘い

    都市出版、1994年3月

    詳細を見る

    目次

    はじめに
    序 章 ウクライナとの出会い
    第一章 ゼロからの国づくり
    第二章 金融のない世界
    第三章 インフレ下の風景
    第四章 地方周遊~東へ西へ
    第五章 ウクライナの悩み
    第六章 通貨確立への道
    第七章 石油は穀物より強し
    終 章 ドンバスの変心とガリツィアの不安
    後 記
    ウクライナ関係年表

研究調査

ロシア、ウクライナ研究をオリジナル・グラウンドとし、 ユーラシア全体をキャンバスとする広域的なテーマを中心にして実践的な研究調査をおこなっています。

講 演

ロシア情勢、ウクライナ情勢を中心に、現地での経験談や苦労談などを織り交ぜながら、わかりやすい講演を心がけています。最近の演題例は次のとおりです。

「わが体験的ロシア・ウクライナ論-砲声止まぬユーラシアを想う-」
「『陸と海の地政学』から紐解く-日本経済の今後と企業経営の課題-」

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西谷 公明

合同会社 N&R アソシエイツ 代表

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各種お問い合わせはこちらまで

Email:nr-associates@mbr.nifty.com

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