米ロ首脳会談に思う

拝啓 皆様には、恙なくお過ごしのことと拝察いたします。

 6月におこなわれた米ロ首脳会談が、核保有大国どうしの重量級の首脳会談だったことはまちがいありません。けれども同時に、世界のイシューがいまや米中であることをあらためて感じさせるものでもありました。

 3月なかば、ABCニュースのインタビューでのバイデン大統領の“プーチン、殺人者”発言が波紋を呼びました。クレムリンは激怒して、ただちに駐米ロシア大使を召還すると、返す刀で駐ロアメリカ大使を国外追放しました。
 他方5月はじめ、アメリカ東海岸の動脈を担う石油パイプライン企業がハッカー(ransomware)の攻撃をうけ、燃料の供給が数日間も途絶する一大事がありました。
 FBIはただちに報復にでました。ロシアに本拠をもつとされるハッカー集団“ダークサイド”が使用するサーバーを破壊し、かつ彼らが件のパイプライン企業からまきあげたビットコインの身代金(440万ドル)の大半も取り返しました。ほぼ同時にビットコインの価格も暴落しました(ここがアメリカの怖いところです)。

 そのうえで、バイデンはプーチンを首脳会談に誘いました。
 “あのハッカー、ロシアにいるんだよね。ところで、あなたの国で輸出用の石油パイプラインに同じことが起きたらどんな気持ちがするかね?”
 “ふむ・・・、それは大変なことになる”
 バイデンは、やおら16のインフラ分野をレッドゾーンとして提示した。
 そして、撃ち方やめ! 大使をたがいに守備位置へ戻すことで合意する。

 ロシアをこれ以上中国へ追いやらない、そのためにロシアと対話を再開する。アメリカのねらいはその一点にあったように思います。バイデンのアメリカに同調すべく、ドイツとフランスもEU・ロシア首脳会談の開催へ動きました。どうやらこちらは不発に終わったようですが。
 他方、首脳会談ではこんなやりとりもあったはず。
 “ウクライナのNATO加盟は容認しない。ベラルーシへも余計な手出しはしないでくれ”
 あいかわらず大国どうしの思惑にゆれるふたつの小国のことに思いを致した次第です。

 エコノミストは社会という大きな器に育てていただくものだと思っています。
 ひきつづきご指導、ご鞭撻を賜りますよう、どうぞ宜しくお願いいたします。
 時節柄、ご自愛くださいますように。

心をこめて 

 2021年7月1日

風に向かって立つ

拝啓 コロナ禍で恋人と見上げる月はひときわ美しい。
ワクチン接種はいかがですか?皆さま、無事にすみましたか?

 日本では、ようやくワクチン接種が本格化したところですが、科学を重視した国々はひと足早くアフターコロナへ向かって動いています。日本は一周も二周も後れをとりました。

 思い起こせばこの一年、この国の政治から発せられるのは、「オールジャパン」とか、「生真面目な国民性」とか、はたまた「日本モデル」とか、感情に訴えて聞こえはいいだけで、私には空ろに響くばかりでした。
 けれども所詮、感染症に精神論で立ち向かうことなどできっこありません。
 そのうえ、早くから変異株の脅威が指摘されながら、いまだに水際対策ひとつ徹底できずにいる。

 人口千人あたりの病床数は先進国でいちばん多いはずなのに、なぜ医療がこうも逼迫してしまうのか。先進国といわれる日本で、外出控えを繰り返すばかりで、ワクチン接種率が泣けるほどに低いのはなぜなのか。危機のただなかで、なぜオリンピックを開催しなければならないのか。
 誰もが抱く疑問に対して、政治から血の通った説明はありません。
 いったい何のための政治なのか。政治の気概と誇りはどこへ消えたのか。
 日本の未来について、私たちはもっと真剣に考える必要があります。

 私自身の活動ですが、『陸と海と-アフターコロナの世界をどう見るか-』をテーマに、6月上旬に四国の宇和島と八幡浜で、また下旬には東京と金沢で講演します。
 報道によれば、本年第一四半期のGDP成長率は、年率換算でアメリカ+6.4%、ユーロ圏-2.5%、日本-5.1でした。かたや中国のそれは、対前年同期比ですが、なんと+18.3%だった由。結論はすでに言わずもがな、かもしれません。
 他方、9月後半に、昨年につづいてロシアの有識者たちとのZOOM会見を予定しています。“ロシアのゆくえ”について考えをまとめたいと思います。
 また、そのまえにワクチンを接種して、ぜひとも中国とヨーロッパへ出かけたい。この国の閉じられた空間から一刻も早く脱け出して、アフターコロナの世界のあたらしい現実を肌で感じてみたいと思っています。

 エコノミストは社会という大きな器に育てていただくものだと思っています。
 ひきつづきご指導、ご鞭撻を賜りますよう、どうぞ宜しくお願いいたします。
 時節柄、ご自愛くださいますように。

心をこめて 

 2021年6月1日

プロフィール

西谷 公明(にしたに ともあき)

1953年生まれ

エコノミスト
(合社)N&Rアソシエイツ 代表

(株)国際経済研究所 非常勤フェロー

<略歴>

1980年 早稲田大学政治経済学部卒業

1984年 同大学院経済学研究科博士前期課程修了(国際経済論専攻)

1987年 (株)長銀総合研究所入社

1996年 在ウクライナ日本大使館専門調査員

1999年 帰任、退社。トヨタ自動車(株)入社

2004年 ロシアトヨタ社長、兼モスクワ駐在員室長

2009年 帰任後、BRロシア室長、海外渉外部主査などを経て

2012年 (株)国際経済研究所取締役・理事、シニア・フェロー

2018年 (合社)N&Rアソシエイツ設立、代表就任

著書・寄稿

  • 最新著書

    ユーラシア・ダイナミズム-大陸の胎動を読み解く地政学

    ミネルヴァ書房、2019年10月刊行

    目次

    関係地図
    はしがき-動態的ユーラシア試論
    序 説 モンゴル草原から見たユーラシア
    第一章 変貌するユーラシア
    第二章 シルクロード経済ベルトと中央アジア
    第三章 上海協力機構と西域
    第四章 ロシア、ユーラシア国家の命運
    第五章 胎動する大陸と海の日本
    主要参考文献
    あとがき
    索 引

  • 著 書

    通貨誕生-ウクライナ独立を賭けた闘い

    都市出版、1994年

    目次

    はじめに
    序 章 ウクライナとの出会い
    第一章 ゼロからの国づくり
    第二章 金融のない世界
    第三章 インフレ下の風景
    第四章 地方周遊~東へ西へ
    第五章 ウクライナの悩み
    第六章 通貨確立への道
    第七章 石油は穀物より強し
    終 章 ドンバスの変心とガリツィアの不安
    後 記
    ウクライナ関係年表

  • 寄 稿

    ユーラシアの静かなダイナミズムと海の日本

    未来を創る財団『みらい』2020年3月号

    記事を見る

  • 寄 稿

    ロシア、北の大国からの視界-中国と連携しつつ欧州との関係改善を模索

    時事通信Janet・e-world 2020年1月7日

    記事を見る

  • 寄 稿

    大国の内政に巻き込まれるウクライナ-元コメディアンの新大統領が直面する試練

    時事通信Janet・e-world 2019年10月30日

    記事を見る

  • 寄 稿

    連載:ユーラシア・ダイナミズム-中国とロシア、そして胎動する大陸

    ミネルヴァ通信『究』2017年4月号~2019年5月号

  • 寄 稿

    プーチン再選とユーラシア国家の命運

    『世界』2018年3月号

  • 寄 稿

    モスクワから見た日ロ交渉

    『世界』2016年9月号

  • 寄 稿

    対談:ウクライナの安定へ-世界を動かす日本外交の役割とは何か

    東郷和彦氏との対談、『世界』2014年10月号

  • 寄 稿

    誰にウクライナが救えるか

    『世界』2014年5月号

  • 寄 稿

    ロシア極東開発の地政学

    『世界』2013年3月号

  • 寄 稿

    さらばキエフ、さらば長銀

    『中央公論』1999年1月号

  • 寄 稿

    Considering Russia’s Future

    “Japan SPOTLIGHT” May/June in 2018, Japan Economic Foundation

研究調査

ロシア、ウクライナ研究をオリジナル・グラウンドとし、 ユーラシア全体をキャンバスとする広域的なテーマを中心に、
(株)国際経済研究所に所属して実践的な研究調査をおこなっています。

講 演

"陸と海の地政学"をキーコンセプトとして、ユーラシアの2大国、ロシアと中国の関係を軸に、アフターコロナの世界と日本について積極的に講演活動をおこなっています。

"陸と海の地政学"をキーコンセプトにして、ユーラシアの2大国、ロシアと中国の関係などを中心に、アフターコロナの世界と日本について積極的に講演活動をおこなっています。
2021年は内外情勢調査会(3月15日)からスタートする予定です。

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西谷 公明

合同会社 N&R アソシエイツ 代表

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