不寛容なアメリカと平穏なるロシア

拝啓 風薫る5月。

 ながい巣ごもりで、情報のモノトーンぶりに辟易(へきえき)する日々です。
 ロシアについてもそうです。与えられる情報からは“ロシアは怖い国”、“プーチンは悪い奴”としか思えません。まるでメディアまでもが、反政権デモがひろがることを期待するかのような報道ぶりです。
 けれども、そもそもナヴァリヌイとはなに者か?あの宮殿ビデオはいかにしてつくられたか?ウクライナ危機にアメリカがどう関与しているか?それらを伝える向きはありません。そしてアメリカはまたしても“制裁の拳”です。

 蛇足ながら、ニューヨークタイムズ(2020.12.24)におもしろい記事がありました。
 「アメリカはロシアのハッキングを騒いでいるが、被害者ぶるのはもうやめようではないか。国防相のサイバー部隊をはじめ、アメリカだってやっている。それどころか、もっとやっているのだ」。
 多分、そうなのだろうと思います。

 ところで、意外なことに(というべきか、やはり、というべきか)、当のロシアは平穏そうです。
 油価は60ドル/バレル台で、ロシア経済を安定させるには十分ですし、中央銀行はルーブルをうまく管理し、国庫や財政にも余裕がありそうで、株価も好調です。また、ミシュスチン首相は国民のためによい仕事をしているようです。会計検査院のクドリン総裁やズベルバンクのグレフ総裁などが、首相に協力しているらしいことも驚きです。ふたりはリベラルな考えの持ち主として知られています。

 実はエコノミスト誌(2020.12.14)によれば、ロシアの“ビッグマック”は世界一安いのだそうです。“マック係数”でみると、ルーブルは実際の購買力の3分の1に過小評価されている。つまり、ルーブルでの生活はドルに換算してみるよりもずっと豊かなのだということです。国民が不満をもつ物価の上昇は、流通業の寡占による問題、つまり競争が欠けているせい(これがロシアの課題です)なのだろうと思います。

 他方、カーネギー・モスクワのコレスニコフさんは言っています。
 「ナヴァリヌイはロシア人を未知の『市民社会』に誘うもので不安をいだかせる。だから、ロシア人は彼を遠まきに観察している」。
 「若い世代は、旧世代がえがく国家像にも、ナヴァリヌイが訴えるバラ色の未来像にも興味はなく、ただふつうに自由な生活ができることをのぞんでいる」。
 おそらくプーチン大統領自身もそれをよく理解しているはずです。そしてポスト・プーチンを考えている。

 昨年につづいて、9月にロシアの有識者たちとのZOOM会見を計画しています。“ロシアのゆくえ”について考えてみたいと思います。

 エコノミストは社会という大きな器に育てていただくものだと思っています。
 ひきつづきご指導、ご鞭撻を賜りますよう、どうぞ宜しくお願いいたします。
 時節柄、ご自愛くださいますように。

心をこめて 

 2021年5月1日

続・陸と海と

拝啓 春爛漫です。

 さて、13世紀のモンゴル帝国からはじまって18世紀に北のロシアへ、そしてミレニアムをこえて南の中国へ。ユーラシアにおける大陸帝国の興亡史はゆっくりとおおきく旋回します。

 ところで、ロシアと中国のあいだには利害の対立がさまざまあるうえ、歴史的な不信感や中央アジアにおける競争ほかで蜜月関係はながくはつづかないだろう、という見方もあるようです。けれども、このような見方は “両国は結託しないはずだ” という希望的観測にしばられているように思えます。

 現在、ロシアと中国は、アメリカに対抗して結託しているとみなければなりません。なぜなら、アメリカのいう民主主義とその理念は、両国の強権的な全体主義政権にとり、おおきな脅威となっているからです。そしてそのことが、いまや両国の姿勢をいっそうかたくなにし、たがいを結束させる最大の要因になっていると私はみています。

 ロシアと中国に共通するのは、モンゴル遊牧帝国の版図からその殻をやぶって発展したことです。同時にここで重要なのは、モンゴルの支配が西ヨーロッパまではおよばなかったということ。そして、アメリカをはじめ欧米諸国は、ルネサンスと大航海時代をへて、市民社会と近代資本主義を形成しながら発展してきました。

 現在、ロシアや中国が、あたかも遊牧帝国の母斑をのこすがごとく、政治的には権威主義、社会的には集団主義と互助精神を特徴とするのに対して、日本をふくむ欧米諸国は、民主主義を政治理念にかかげ、自立した個人による自由な競争を社会の基本原則にしていることはいうまでもありません。

 日本は西側先進国のなかで唯一、大陸の地形につながる海洋に浮かぶ列島国です。私たちは、陸と海とのいまや古典的ともいうべき対立の構図をこえて、アジアと太平洋のひらかれた環、すなわちリンクでなければならない。日本は、ロシアや中国との相互理解のための対話をたやすべきではないと思っています。

 コロナとのたたかいはつづきそうですが、内外情勢調査会から3月18日にリリースされたウェビナー『陸と海と』をベースにして、今後は講演活動にも力をいれていく所存です。
 エコノミストは社会という大きな器に育てていただくものだと思っています。
 ひきつづきご指導、ご鞭撻を賜りますよう、どうぞ宜しくお願いいたします。
 時節柄、ご自愛くださいますように。

心をこめて 

 2021年4月1日

敬具

プロフィール

西谷 公明(にしたに ともあき)

1953年生まれ

エコノミスト
(合社)N&Rアソシエイツ 代表

(株)国際経済研究所 非常勤フェロー

<略歴>

1980年 早稲田大学政治経済学部卒業

1984年 同大学院経済学研究科博士前期課程修了(国際経済論専攻)

1987年 (株)長銀総合研究所入社

1996年 在ウクライナ日本大使館専門調査員

1999年 帰任、退社。トヨタ自動車(株)入社

2004年 ロシアトヨタ社長、兼モスクワ駐在員室長

2009年 帰任後、BRロシア室長、海外渉外部主査などを経て

2012年 (株)国際経済研究所取締役・理事、シニア・フェロー

2018年 (合社)N&Rアソシエイツ設立、代表就任

著書・寄稿

  • 最新著書

    ユーラシア・ダイナミズム-大陸の胎動を読み解く地政学

    ミネルヴァ書房、2019年10月刊行

    目次

    関係地図
    はしがき-動態的ユーラシア試論
    序 説 モンゴル草原から見たユーラシア
    第一章 変貌するユーラシア
    第二章 シルクロード経済ベルトと中央アジア
    第三章 上海協力機構と西域
    第四章 ロシア、ユーラシア国家の命運
    第五章 胎動する大陸と海の日本
    主要参考文献
    あとがき
    索 引

  • 著 書

    通貨誕生-ウクライナ独立を賭けた闘い

    都市出版、1994年

    目次

    はじめに
    序 章 ウクライナとの出会い
    第一章 ゼロからの国づくり
    第二章 金融のない世界
    第三章 インフレ下の風景
    第四章 地方周遊~東へ西へ
    第五章 ウクライナの悩み
    第六章 通貨確立への道
    第七章 石油は穀物より強し
    終 章 ドンバスの変心とガリツィアの不安
    後 記
    ウクライナ関係年表

  • 寄 稿

    ユーラシアの静かなダイナミズムと海の日本

    未来を創る財団『みらい』2020年3月号

    記事を見る

  • 寄 稿

    ロシア、北の大国からの視界-中国と連携しつつ欧州との関係改善を模索

    時事通信Janet・e-world 2020年1月7日

    記事を見る

  • 寄 稿

    大国の内政に巻き込まれるウクライナ-元コメディアンの新大統領が直面する試練

    時事通信Janet・e-world 2019年10月30日

    記事を見る

  • 寄 稿

    連載:ユーラシア・ダイナミズム-中国とロシア、そして胎動する大陸

    ミネルヴァ通信『究』2017年4月号~2019年5月号

  • 寄 稿

    プーチン再選とユーラシア国家の命運

    『世界』2018年3月号

  • 寄 稿

    モスクワから見た日ロ交渉

    『世界』2016年9月号

  • 寄 稿

    対談:ウクライナの安定へ-世界を動かす日本外交の役割とは何か

    東郷和彦氏との対談、『世界』2014年10月号

  • 寄 稿

    誰にウクライナが救えるか

    『世界』2014年5月号

  • 寄 稿

    ロシア極東開発の地政学

    『世界』2013年3月号

  • 寄 稿

    さらばキエフ、さらば長銀

    『中央公論』1999年1月号

  • 寄 稿

    Considering Russia’s Future

    “Japan SPOTLIGHT” May/June in 2018, Japan Economic Foundation

研究調査

ロシア、ウクライナ研究をオリジナル・グラウンドとし、 ユーラシア全体をキャンバスとする広域的なテーマを中心に、
(株)国際経済研究所に所属して実践的な研究調査をおこなっています。

講 演

"陸と海の地政学"をキーコンセプトとして、ユーラシアの2大国、ロシアと中国の関係を軸に、アフターコロナの世界と日本について積極的に講演活動をおこなっています。

"陸と海の地政学"をキーコンセプトにして、ユーラシアの2大国、ロシアと中国の関係などを中心に、アフターコロナの世界と日本について積極的に講演活動をおこなっています。
2021年は内外情勢調査会(3月15日)からスタートする予定です。

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西谷 公明

合同会社 N&R アソシエイツ 代表

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