12年目の帰任報告

謹啓
新しい年を迎えて、益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。

 この度、新著『ロシアトヨタ戦記』を中央公論新社から上梓しました。
 吉田大作さんの編集に、間村俊一さんが“ちょっといい感じ”の装丁をほどこしてくださいました。

 一概に「世界経済」といわれる領域で仕事をしながら、人はその地の空気をどんなふうに吸い、花の移ろいをどのようにながめ、冷たい雨や雪をどうしのぎ、町の喧騒や社会の混乱を生きているのか。そしてその社会でビジネスを組織し、営むとはどういうことなのか。そんな現地の日常のなかから経済を論じ、しばしば風景の描写を通して語り出す、ユーラシアの生活(歴史も含まれる)と経済の「叙景」でもある。
 たぶん著者にとって、「トヨタ」はたまたま自らに与えられた戦車だった(あたかも古代ローマの闘技場を走るような)。もちろん、それは本国日本の三河と尾張にわたる大きな城に属しているが、雇われた彼はそのためにグラディエーター(剣闘士)を演じた。
 ただし、現地のロシア人、ジョージア人、ポーランド人、チェチェン人とさえ信頼関係をきづいて戦った。トヨタのためというより、彼らを含めた市井の人びとの生活のために。そして戦場はグローバル経済、そのなかのロシア市場だ。それが「トヨタのため」であったのは、彼をひろったトヨタに、シベリア鉄道の旅を共にした破格の「相談役」がいたからだろう。
 ビジネス書や経済書の周辺で、だいぶ異質な(そして物議を醸す)しろものだが、良書である。こういう本は「書く」ことに意義がある。

 ある著名な思想家が寄せてくれた短評です。
 ロシアトヨタ時代の出来事を、東西冷戦の終結と平成のバブル崩壊から米中覇権競争下のいまへとつづく歴史の時空を建付けにして回想しました。
 かつてロシアで・・・。Once upon a Time in Russia・・・。
 これを歴史と呼ばずしてなんと呼ぼうか。ご笑覧いただければ幸いです。

 また、新著刊行後の第一作として、小論「欧州とロシアのはざま-ソ連崩壊から30年後の現状をみる」を“nippon.com”に寄せて英語、ロシア語、中国語に翻訳して発信しました (➡こちらをクリック)
 エコノミストは社会という大きな器に育てていただくものだと思っています。
 本年も、どうぞ宜しくご指導、ご鞭撻を賜りますようお願いいたします。

心をこめて、敬具

 2022年1月1日

ソ連崩壊30年に寄せて

師走の候、皆さまには益々ご清祥のことと拝察します。

 「根底にあるのは社会の問題。ロシアは・・・イワンからはじまってピョートル、スターリンに由来する中央集権国家。長い間、タテ型の統治がおこなわれ、下には上に依存しきった多数の住民がいる。このレジームが破壊されきっていない」
 10月におこなったZOOM会見(抄録を研究調査に掲載しました)でこう述べたのは、国立モスクワ高等経済学院のロシア政治史学者、メドヴェージェフ教授でした。

 20年前にプーチンは大統領就任後、原油とガスの輸出関税と採掘税を導入。税率は輸出価格と連動する、とされました。つまり、油価が上がれば税収も左うちわで増える仕組み。“レント”(=超過利潤)資本主義たる所以です。プーチンは天然の石油・ガスが生むこの膨大なレントを中央に吸い上げることによって権力の集中に成功したのでした。

 20年後のいま、国家に依存する社会があります。
 -政府歳入:40‐50%は石油・天然ガスおよび関連製品による。
 -経済活動:50‐70%(定義によって開きあり)は国家セクターによる。
 -就業構造:国民の多くは公務員、国家企業の社員、公団の職員として給与を受け取る。
 これぞ、メドヴェージェフさんが指摘する現代ロシアの実像にほかなりません。

 中国との違いについて、メドヴェージェフさんはつづけます。
 「ロシアは“レント”型資本主義、資源輸出のレントに依存した体制。他方、中国は開発独裁で未来志向・・・」。
 専修大学経済学部の田中隆之教授から興味深いコメントをいただきました。
 ―― ロシアは成長がむずかしくなっているので、独裁の正当性を主張できない分、野党や反政権活動への弾圧が強化される構図。このところ中国で起きている出来事も、背景に成長の鈍化があり、開発独裁への支持が潜在的に得られにくくなることへの防御措置とみるべきか?
 両独裁国家における権威主義と情報管理はこれからいっそう強化されていきそうです。

 けれども、重要なのは、大多数のロシア人はプーチンの独裁を受け容れて、“プーチンによる平穏”を肯定している現実です。“ナヴァリヌィ”の事件を声高に報じたのは欧米メディアの情報空間なのであって、多くの国民は彼を遠巻きに眺めていたのでした。おそらく、その点ではお隣の中国も同じでしょう。

 この度、新著『ロシアトヨタ戦記』を中央公論新社から上梓しました。
 2004年1月から2009年3月まで5年3ヵ月にわたるロシアトヨタ時代の出来事を、東西冷戦の終結と平成のバブル崩壊から米中覇権競争下のいまへとつづく、変転する歴史の時空を建付けにして回想しました。『ユーラシア・ダイナミズム』(2019年10月、ミネルヴァ書房)につづく独立後第2作目。  かつてロシアで・・・。ご笑覧いただければ幸いです。
 エコノミストは社会という大きな器に育てていただくものだと思っています。
 ひきつづきご指導、ご鞭撻を賜りますようお願いいたします。
 少し早いですが、メリークリスマス!

心をこめて 

 2021年12月9日

プロフィール

西谷 公明(にしたに ともあき)

1953年生まれ

エコノミスト
(合社)N&Rアソシエイツ 代表

<略歴>

1980年 早稲田大学政治経済学部卒業

1984年 同大学院経済学研究科博士前期課程修了(国際経済論専攻)

1987年 (株)長銀総合研究所入社

1996年 在ウクライナ日本大使館専門調査員

1999年 帰任、退社。トヨタ自動車(株)入社

2004年 ロシアトヨタ社長、兼モスクワ駐在員室長

2009年 帰任後、BRロシア室長、海外渉外部主査などを経て

2012年 (株)国際経済研究所取締役・理事、シニア・フェロー

2018年 (合社)N&Rアソシエイツ設立、代表就任

著書・寄稿

  • 最新著書

    ロシアトヨタ戦記

    中央公論新社、2021年12月刊行

    目次

    プロローグ
    第一章 ロシア進出
    第二章 未成熟社会
    第三章 一燈を提げて行く
    間奏曲 シベリア鉄道紀行譚
    第四章 リーマンショック、その後
    エピローグ
    あとがき

  • 著 書

    ユーラシア・ダイナミズム-大陸の胎動を読み解く地政学

    ミネルヴァ書房、2019年10月

    目次

    関係地図
    はしがき-動態的ユーラシア試論
    序 説 モンゴル草原から見たユーラシア
    第一章 変貌するユーラシア
    第二章 シルクロード経済ベルトと中央アジア
    第三章 上海協力機構と西域
    第四章 ロシア、ユーラシア国家の命運
    第五章 胎動する大陸と海の日本
    主要参考文献
    あとがき
    索 引

  • 著 書

    通貨誕生-ウクライナ独立を賭けた闘い

    都市出版、1994年3月

    都市出版、1994年

    目次

    はじめに
    序 章 ウクライナとの出会い
    第一章 ゼロからの国づくり
    第二章 金融のない世界
    第三章 インフレ下の風景
    第四章 地方周遊~東へ西へ
    第五章 ウクライナの悩み
    第六章 通貨確立への道
    第七章 石油は穀物より強し
    終 章 ドンバスの変心とガリツィアの不安
    後 記
    ウクライナ関係年表

  • NEW

    ロシア2021~経済と地政学から今後の行方を占う

    (講演録)海外投融資情報財団機関誌2022年1月号

    記事を見る

  • NEW

    プーチンのロシア-有識者インタビューから考える

    太陽グラントソントン・エグゼクティブ・ニュース 2021年12月号

    記事を見る

  • NEW

    寄 稿

    対ロシア外交:求められる冷静な視点とは

    内外情勢調査会『J2TOP』2021年10月号

  • 寄 稿

    ユーラシアの静かなダイナミズムと海の日本

    未来を創る財団『みらい』2020年3月号

    記事を見る

  • 寄 稿

    ロシア、北の大国からの視界-中国と連携しつつ欧州との関係改善を模索

    時事通信Janet・e-world 2020年1月7日

    記事を見る

  • 寄 稿

    大国の内政に巻き込まれるウクライナ-元コメディアンの新大統領が直面する試練

    時事通信Janet・e-world 2019年10月30日

    記事を見る

  • 寄 稿

    連載:ユーラシア・ダイナミズム-中国とロシア、そして胎動する大陸

    ミネルヴァ通信『究』2017年4月号~2019年5月号

  • 寄 稿

    プーチン再選とユーラシア国家の命運

    『世界』2018年3月号

  • 寄 稿

    モスクワから見た日ロ交渉

    『世界』2016年9月号

  • 寄 稿

    対談:ウクライナの安定へ-世界を動かす日本外交の役割とは何か

    東郷和彦氏との対談、『世界』2014年10月号

  • 寄 稿

    誰にウクライナが救えるか

    『世界』2014年5月号

  • 寄 稿

    ロシア極東開発の地政学

    『世界』2013年3月号

  • 寄 稿

    さらばキエフ、さらば長銀

    『中央公論』1999年1月号

  • 寄 稿

    Considering Russia’s Future

    “Japan SPOTLIGHT” May/June in 2018, Japan Economic Foundation

研究調査

ロシア、ウクライナ研究をオリジナル・グラウンドとし、 ユーラシア全体をキャンバスとする広域的なテーマを中心にして実践的な研究調査をおこなっています。

講 演

"陸と海の地政学"をキーコンセプトとして、ユーラシアの2大国、ロシアと中国の関係を軸に、アフターコロナの世界と日本について積極的に講演活動をおこなっています。

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西谷 公明

合同会社 N&R アソシエイツ 代表

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