“近況ご報告とお知らせ”

前略 今月は事情により、一週間遅れの更新となりました。
皆様には、恙なく、益々ご清祥のことと拝察します。

 私事になりますが、8月30日に米国ロサンゼルス(LA)で講演に招かれたのを機に、2週間ほど西海岸で過ごしました。

 講演会場のホテルは“ドジャーズ”観戦に訪れた日本人旅行者でにぎわい、小さな国土でせっせと蓄えた国富の“安い円”が、かくも空しく吸い取られていく様に苦い思いを禁じ得ませんでした。

 アメリカ経済は何やかや言っても西側経済のセンターとして繁栄していること、また折しも二人の大統領候補によるTV討論がおこなわれた日、人々がパブリックビューイングで真剣に聴き入る様を見て、民主主義の本場にいることをあらためて感じた次第です。

 他方、帰国後、9月18日(水)から20日(金)まで3日間、ロシアの政治・経済、軍事・外交、国際問題を専門とする12人のロシア人有識者とZOOMで会見しました(日ロ学術報道専門家会議主宰)。

 抄録を今月と来月の2回に分けて掲載します。今月は政治・経済・社会を中心に、A.コレスニコフ氏(「ノーヴァヤガゼータ・モスクワ」編集委員)、L.グドコフ氏(「レヴァダセンター」前代表)はじめ、現代ロシアを代表するリベラル派識者たちの見方と思いをまとめました。皆様のご関心に、いささかなりとも応えるものであれば幸いです。
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 また11月には、早稲田大学エクステンションセンターの公開講座で、「ロシアとウクライナ、ふたつの国のこの30年」と題して3回にわたって講演する予定です(6、13、20日の各水曜日)。

 ロシア・ウクライナ戦争は3度目の冬を迎えようとしています。
 素朴な疑問として、一体全体、<どうしてこんなことになってしまったのか>
 いまは反目し合うふたつの国は、<もともとどういう間柄だったのか>。ロシアが内に宿す「野性」についての考察は脇へ置くとして、<この戦争の根っ子はどこにあるのか>

 あるいは、<そもそもウクライナとはどういう国なのか>
 ロシアが欧米世界から孤立し、あたかもクマが雪原に紅く血を滴らせながらタイガの森の奥へと帰っていくように、国際社会における影響力を失っていくことはほぼ間違いないとして、果たして<ウクライナはこれから先も、現在のままの国で在り続けられるのか>

 ロシアとウクライナのこの30有余年を、私自身が現場で目撃し、肌で感じてきたことを交えて振り返りつつ、東スラブのふたつの国の過去、現在、これからと、私たちが生きる時代の地平を照らしてみたいと思います。

 第一回 誰にウクライナが救えるか
 第二回 ロシア、ユーラシア国家の命運
 第三回 歴史は4度繰り返すか
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 最後に、時事通信社への寄稿も、併せてご笑覧いただければ幸甚です。
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 季節の変わり目、どうぞご自愛くださいますように。

心をこめて

 2024年10月8日

西谷公明


カリフォルニア、サンタバーバラの街角にて

“越境侵攻はウクライナ軍の暴走だった!?”

前略 暦のうえで、立秋はとうに過ぎたはずですが。

 この夏、ウクライナ軍がロシア西部のクルスク州を奇襲したねらいは何だったのか?
 ロシア社会を不安に陥れて、プーチン大統領の足もとを揺さぶるためか?
 あるいは、東部ウクライナでの劣勢をいっきに晴らすほどの戦果をあげて、西側の軍事支援を加速させるとともに、国民の戦意を鼓舞するためか?

 実は、あれはウクライナ軍の暴走ではなかったか、と私は見ています。
 同時に、作戦の重要な隠れた意図が、ロシアを試し、かたやアメリカと西側を試すことだったことも明らかです。

 ウクライナ側は、ロシアによる「核の脅し」が、怖れるに足らない「はったり」である(?)ことをアメリカと西側に示しつつ、彼らから供与された最新兵器の使用制限を解除させたい意図を隠しません。作戦が実行に移された後、ゼレンスキー大統領はアメリカと西側首脳に宛てて、ロシア領内への長距離ミサイルによる攻撃を承認するよう求めました。

 これに対し、兵器を供与しているアメリカと西側主要国は、この越境侵攻に対して慎重な立場を崩しません。支持も反対も表明せず、静観しているように見えます。

 果たして「核の脅し」は杞憂に過ぎないのか?プーチン大統領に「核を使う勇気」などそもそもないのか?しかし、それがわかるまで試してからではすでに遅いというのが、この問題の「リアルな本質」に他なりません。

 他方、越境侵攻の結果として、はっきりしたことがふたつあります。
 ひとつは、ウクライナが期待したはずの中国の協力による仲裁の目が潰えたと考えられること。
 もうひとつは、ゼレンスキー政権の肝煎りだった第二回国際平和サミットの開催があやしくなったこと。
 いったい何が起きているのか。私の見方を『現代ビジネス』に寄稿しました(8月27日掲載)。ご笑覧ください。
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 最後に、この秋、早稲田大学エクステンションセンターにおける公開講座で、「ロシアとウクライナ、ふたつの国のこの30年」と題して3回にわたって講演します(11月6、13、20日の各水曜日)。
 ここへ至るロシアとウクライナの30年を、「ソ連崩壊後」という大きな建付けのなかで振り返りつつ、この戦争が問う意味の奥行きと、私たちが生きる時代の地平を照らしてみたいと思います。
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 また、9月18日から20日まで3日間にわたり、ロシアの内政、経済、外交・軍事を専門とする10数名のロシア人有識者にZOOMインタビューをおこなう計画です。(予定ど おり実施できた暁には)抄録を次回10月1日更新の本サイトで公開する予定です。

 8月30日に米国ロサンジェルスで講演し、そのまま2週間ほどカリフォルニアで過ごします。
 エコノミストは、社会という大きな器に育てていただくものだと思っています。
 引き続き、宜しくご指導、ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げる次第です。
 厳しい残暑がつづきます。ご自愛くださいますように。

心をこめて

 2024年9月1日

西谷公明


盛岡市紺屋町の古い街並み

プロフィール

西谷 公明(にしたに ともあき)

1953年生まれ

エコノミスト
(合社)N&Rアソシエイツ 代表

<略歴>

1980年 早稲田大学政治経済学部卒業

1984年 同大学院経済学研究科博士前期課程修了(国際経済論専攻)

1987年 (株)長銀総合研究所入社

1996年 在ウクライナ日本大使館専門調査員

1999年 帰任、退社。トヨタ自動車(株)入社

2004年 ロシアトヨタ社長、兼モスクワ駐在員室長

2009年 帰任後、BRロシア室長、海外渉外部主査などを経て

2013年 (株)国際経済研究所取締役・理事、シニア・フェロー

2018年 (合社)N&Rアソシエイツ設立、代表就任

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    JOIグローバルトピックセミナー

    「ウクライナ侵攻3年目-終わらない戦争の現在地」

    2024年8月6日 海外投融資情報財団 ウェビナー

    概要はこちら

著 書

  • 復 刊

    ウクライナ 通貨誕生-
    独立の命運を賭けた闘い

    岩波現代文庫、2023年1月

  • 著 書

    ロシアトヨタ戦記

    中央公論新社、2021年12月

    詳細を見る

    目次

    プロローグ
    第一章 ロシア進出
    第二章 未成熟社会
    第三章 一燈を提げて行く
    間奏曲 シベリア鉄道紀行譚
    第四章 リーマンショック、その後
    エピローグ
    あとがき

  • 著 書

    ユーラシア・ダイナミズム-
    大陸の胎動を読み解く地政学

    ミネルヴァ書房、2019年10月

    詳細を見る

    目次

    関係地図
    はしがき-動態的ユーラシア試論
    序 説 モンゴル草原から見たユーラシア
    第一章 変貌するユーラシア
    第二章 シルクロード経済ベルトと中央アジア
    第三章 上海協力機構と西域
    第四章 ロシア、ユーラシア国家の命運
    第五章 胎動する大陸と海の日本
    主要参考文献
    あとがき
    索 引

  • 著 書

    通貨誕生-
    ウクライナ独立を賭けた闘い

    都市出版、1994年3月

    詳細を見る

    目次

    はじめに
    序 章 ウクライナとの出会い
    第一章 ゼロからの国づくり
    第二章 金融のない世界
    第三章 インフレ下の風景
    第四章 地方周遊~東へ西へ
    第五章 ウクライナの悩み
    第六章 通貨確立への道
    第七章 石油は穀物より強し
    終 章 ドンバスの変心とガリツィアの不安
    後 記
    ウクライナ関係年表

研究調査

ロシア、ウクライナ研究をオリジナル・グラウンドとし、 ユーラシア全体をキャンバスとする広域的なテーマを中心にして実践的な研究調査をおこなっています。

講 演

ロシア情勢、ウクライナ情勢を中心に、現地での経験談や苦労談などを織り交ぜながら、わかりやすい講演を心がけています。最近の演題例は次のとおりです。

「わが体験的ロシア・ウクライナ論-砲声止まぬユーラシアを想う-」
「『陸と海の地政学』から紐解く-日本経済の今後と企業経営の課題-」 「ロシアとウクライナ-終わらない戦争の現在地」

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西谷 公明

合同会社 N&R アソシエイツ 代表

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各種お問い合わせはこちらまで

Email:nr-associates@mbr.nifty.com

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