風に向かって・・・!

 皆さまには、恙なく新年をお迎えのこととお慶び申し上げます。

 さて、いよいよ「トランプのアメリカ」が始動します。

 まもなく米ロ首脳会談が3年ぶりにおこなわれ、ウクライナ戦争は多分、収束へ向かうでしょう。
 イーロン・マスク氏は、ウクライナの衛星通信サービス「スターリンク」への接続を止めるかもしれません。凍てつく森の塹壕でスターリンクが使えなければ、ドローンは飛ばせません。
 そして冬将軍が、戦線を文字どおり「凍結」させるでしょう。

 この上、ウクライナに必要な支援は、もはや戦うための武器ではありません。平穏な日々と復興へ向けた支えです。そして、西側の政治指導者に求められるのは、ロシアのプーチン大統領との対話です。

 ドナルド・トランプがいかなる政治家であれ、彼の再登場を待ってしか、戦争を終えることのできない世界に私たちは生きています。

 賢者はどこへ行ったのか。昨年暮れに、ネットメディアへ寄稿しました。
「残念だが・・・1月にウクライナ戦争は『リベラリズム』から『リアリズム』に変わる」
 (講談社現代ビジネス 24.12.1)詳細はこちら
「トランプ流『リアリズム』が世界を覆う時—出口見えたウクライナ戦争」
 (時事通信Janet 24.12.24)詳細はこちら
 ご笑覧賜れば幸いです。

 他方、アメリカは「ドル」の生産・流通を支配して、世界で今もっとも繁栄している国なのだろうと思います。昨年8月にカリフォルニアを訪れた時の実感です。
 そして、かの国民は、世界に対して傲慢さを誇らしげに振りまくその男を再びリーダーに選びました。市場経済に「見えざる神」が宿るのならば、やがて市場によって逆襲される日が来るかもしれません。

 3月上旬(11₋12日)に長崎で講演する予定です。
 私にとり、そこは格別の地。「長崎湾というのは、どこから見ても絵になります」と、司馬遼太郎は『街道をゆく-肥前の諸街道』で書いています。演題を「ウクライナ戦争の終結に寄せる」とする考えです。
 その後、昨年に続いて、もう一度中央アジアとコーカサスへ旅行する予定です。またその機会に、ウクライナまで足を伸ばしたいとも思っています。

 風に向かって。本年もひきつづき、どうぞ宜しくお願い申し上げます。
 皆さまにとり、素晴らしい一年となりますように。

心をこめて

 2025年 元旦

西谷公明


米西海岸、サンタモニカの街角にて(24年夏)

“2024年師走、碧空の記憶”

 拝啓 皆さまには、恙なくお過ごしのことと拝察いたします。

 かれこれ30年ちかく前になります。
 1997年夏のある日、私はウクライナ中部ドニプロ市のミサイル工場ユジマシを訪れていました。核を搭載可能なロケットの解体作業を視察するためでした。

 かつて、そこは大陸間弾道ミサイル(ICBM)の75%を設計・製造していた旧ソ連屈指の名門工場で、時を経たいまは、ウクライナ国防省が欧米から先進的な部材を調達して兵器を製造しています。

 視察を終えて中庭へ出ると、弾頭を外されて無用の長物と化した巨大な筒殻が、いかにも所在なさげに陽光に晒(さら)されていました。
 見上げれば、まるで抜けたように高く澄みきった空に、ウクライナ国旗と並んで星条旗が翻(ひるがえ)ります。翌日には、ワシントンからZ.ブレジンスキー元大統領補佐官が訪問することになっていました。

 11月のアメリカ大統領選挙はトランプ候補の圧勝に終わりました。アメリカ国民はバイデン大統領が後継者として指名したハリス副大統領ではなく、同大統領の宿敵ドナルド・トランプを選びました。トランプ氏はロシアとウクライナの戦争を直ちに終えると約束しています。

 与えられた時間は新年1月20日までと決まっています。バイデン政権末期のアメリカと、イギリス、フランスの両現政権は、ウクライナに供与した長射程兵器によるロシア領内への攻撃を容認しました。アメリカはまた、これまで禁止してきた対人地雷の供与をも表明しました。

 ロシアは、最新鋭の極超音速中距離弾道ミサイル「オレシュニコフ」を発射し、「冷戦終結の記念碑」とも言うべきユジマシに、マッハ11を超える速さ(ウクライナ国防省情報総局発表)で撃ち込んで、それに応じました。プーチン大統領がユジマシを標的として選んだことは、バイデン大統領に宛てた強烈なメッセージだったに違いありません。

 2022年2月、ロシアはウクライナに軍事侵攻し、冷戦終結後の世界に「乱世」を呼び込みました。それが、アメリカ一極支配による平和のルールを踏みにじる行為だったことは言うまでもありません。

 「ロシアに勝たせてはならない」。バイデン大統領は拳を振り下ろしながらそう言って、西側主要国と北大西洋条約機構(NATO)を糾合して未曽有のウクライナ支援に乗り出しました。

 けれども結局、バイデンのアメリカはプーチンのロシアを屈服させることはできませんでした。そして、西側主要国の政治リーダーは、相も変らずウクライナ支援の継続を主張するばかりです。戦闘は収まるどころか、一歩踏み誤れば、ヨーロッパを巻き込んだ世界大戦につながりかねない袋小路に陥っています。

 難しい後始末はトランプ次期政権に託されて、2024年が幕を閉じることになりそうです。
 このようにしてしか戦争を終えることのできない世界に私たちは生きています。
 賢者の不在を嘆かざるを得ません。

 (追伸)本日、ウクライナ戦争についての考えをネットメディア『現代ビジネス』へ寄稿しました。ご笑覧頂ければ幸いです。

 少し早いですが、メリー・クリスマス!

心をこめて

 2024年12月1日

西谷公明


9月に米国西海岸、サンノゼ近郊のワイナリーを訪れる

プロフィール

西谷 公明(にしたに ともあき)

1953年生まれ

エコノミスト
(合社)N&Rアソシエイツ 代表

<略歴>

1980年 早稲田大学政治経済学部卒業

1984年 同大学院経済学研究科博士前期課程修了(国際経済論専攻)

1987年 (株)長銀総合研究所入社

1996年 在ウクライナ日本大使館専門調査員

1999年 帰任、退社。トヨタ自動車(株)入社

2004年 ロシアトヨタ社長、兼モスクワ駐在員室長

2009年 帰任後、BRロシア室長、海外渉外部主査などを経て

2013年 (株)国際経済研究所取締役・理事、シニア・フェロー

2018年 (合社)N&Rアソシエイツ設立、代表就任

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    プロローグ
    第一章 ロシア進出
    第二章 未成熟社会
    第三章 一燈を提げて行く
    間奏曲 シベリア鉄道紀行譚
    第四章 リーマンショック、その後
    エピローグ
    あとがき

  • ユーラシア・ダイナミズム-

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    大陸の胎動を読み解く地政学

    ミネルヴァ書房、2019年10月

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    関係地図
    はしがき-動態的ユーラシア試論
    序 説 モンゴル草原から見たユーラシア
    第一章 変貌するユーラシア
    第二章 シルクロード経済ベルトと中央アジア
    第三章 上海協力機構と西域
    第四章 ロシア、ユーラシア国家の命運
    第五章 胎動する大陸と海の日本
    主要参考文献
    あとがき
    索 引

  • 通貨誕生-ウクライナ独立を賭けた闘い

    著 書

    通貨誕生-
    ウクライナ独立を賭けた闘い

    都市出版、1994年3月

    詳細を見る

    目次

    はじめに
    序 章 ウクライナとの出会い
    第一章 ゼロからの国づくり
    第二章 金融のない世界
    第三章 インフレ下の風景
    第四章 地方周遊~東へ西へ
    第五章 ウクライナの悩み
    第六章 通貨確立への道
    第七章 石油は穀物より強し
    終 章 ドンバスの変心とガリツィアの不安
    後 記
    ウクライナ関係年表

研究調査

ロシア、ウクライナ研究をオリジナル・グラウンドとし、 ユーラシア全体をキャンバスとする広域的なテーマを中心にして実践的な研究調査をおこなっています。

講 演

「ロシアとウクライナ」を軸として、冷戦終結後の30年を振り返りつつ、(一社)内外情勢調査会をはじめさまざまな場所で、心に響く講演を心がけて発信しています。

西谷公明オフィシャルサイト
Tomoaki Nishitani official site

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