プーチンのロシア、現在とそのゆくえ

拝啓 時下、益々ご清祥のことと拝察いたします。

 この12月、ロシアはソ連崩壊後30年を迎えます。
 去る9月20日から23日まで、東京とモスクワ、パリ、ソウルをZOOMでつないで、最新ロシア情勢について現代ロシアの有識者15人とオンラインで会見しました(日露学術報道専門家会議)。リベラルな考えの有識者たちが、自らの国の現状をどのように認識しているかを知るうえで、実に興味深い4日間でした。

「いずれにせよ、ロシアのパブリック空間は“焼け落ちた廃屋”のよう。プーチンと他の政治リーダーたちとのギャップが明らかに拡大。プロパガンダと情報政策の産物と言える」。

 レバダセンター(独立系世論調査機関)のグドコフさんは、こう述べました。
 たしかに、プーチン大統領の絶対化と、反政権活動の封じ込めは徹底されているようですが(今回、あらためてそう感じました)、逆にそれは、現代ロシアが秘める脆さと危うさ( “市民社会”が固まっていない)の裏返しであるようにも思えます。ロシアは、いまもソ連崩壊後の長い途上にあるのかもしれません。

 ならば、ロシアはどこへ向かうのか?カーネギーのコレスニコフさんはこう語りました。

「たしかに人々は変化を求めている。けれども、どんな変化が必要か、わからないでいる。変えると、今よりひどくなるのではないか、というセンチメントが妥協を生んでいる。ロシアは上からの変化によって動かされてきた。エリートたちは変えない方がいいと思っている。このまま持つのではないかと考えている」。

 幸いにも、欧州における化石燃料への需要は、まだしばらく(2030年ぐらいまで)はつづきそうです。

 他方、一年前、「ロシアにとり、中国、広く言えばユーラシアにおける中国との関係が、世界におけるロシアの地位を決めるという点でいまやいっそう重要になった」と語ったのは、国際政治学者のルキヤノフさんでした。ガブーエフさん、マースロフさんらの発言には、経済面で中国への傾斜が進んでいることへの危惧が滲んでいるように思いました。
 そして、筋金入りの自由主義者メドヴェージェフさんの、中国社会を念頭においた次の発言には、ロシア人のプライドが溢れているようでもありました。

「唯一の救いは、私たちが情報社会のなかにいること、ロシアが依然として開かれた世界にいることだ」。

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 エコノミストは社会という大きな器に育てていただくものだと思っています。
 ひきつづきご指導、ご鞭撻を賜りますよう、どうぞ宜しくお願いいたします。
 時節柄、ご自愛くださいますように。

心をこめて 

 2021年10月1日

“中洋”の国々を思う

拝啓 すすきの穂が銀色に光っていました。
皆様には、恙なくお過ごしのことと拝察いたします。

 アフガニスタンの首都カブールが“無血落城”し、タリバンがおよそ20年ぶりに政権を奪還した由。
 撤退する側(“テロとの戦い”を掲げて派兵したアメリカとNATO諸国)の報道ぶりをみていると、いまやこの国を待ち受けるのは、過激なイスラム思想による混乱と恐怖政治だけのように思えてくる。
 けれども、それはどうか?アフガニスタンの人々の認識は、それとは少しちがうのかもしれません。

 長年アフガニスタンで援助活動をつづけ、2019年12月に何者かの凶弾によって斃れた日本人医師、中村哲氏(享年73)は、かつて日経ビジネスのインタビューに答えてこう述べています。

 タリバンは訳が分からない狂信的集団のように言われますが、我々がアフガニスタン国内に入ってみると全然違う。田舎を基盤とする政権で、いろいろな布告も今まであった慣習を明文化したという感じ。少なくとも農民・貧民層にはほとんど違和感はないようです。・・・
 我々の活動については、タリバンは圧力を加えるどころか、むしろ守ってくれる。例えば、井戸を掘る際、現地で意図が通じない人がいると、タリバンが間に入って安全を確保してくれているんです。・・・

 他方、これもいささか古いデータになりますが、2016年春さきに日本外務省が中央アジア(トルキスタンを除く4ヵ国)でおこなった興味深い世論調査結果があります。
 喜ばしいのは、中央アジアの人々が遠い日本へ寄せる信頼と期待の大きさです。

  • もっとも信頼できる国は次のうちどれですか?
  • ロシア61%、日本11%、中国5%。
  • 重要なパートナーは次の国のうちどれですか?(複数選択)
  • ロシア75%、中国49%、日本25%。

 日本は信頼できる重要なパートナーとして期待されているのです。調査結果はまた、アメリカやヨーロッパの国々への期待が小さいことも示しています。
 アフガニスタンも、どうやら日本の援助に期待を寄せているらしい。日本外交は、こういう国々をもっと大切にしなければなりません。

 エコノミストは社会という大きな器に育てていただくものだと思っています。
 ひきつづきご指導、ご鞭撻を賜りますよう、どうぞ宜しくお願いいたします。
 時節柄、ご自愛くださいますように。

心をこめて 

 2021年9月1日

プロフィール

西谷 公明(にしたに ともあき)

1953年生まれ

エコノミスト
(合社)N&Rアソシエイツ 代表

(株)国際経済研究所 非常勤フェロー

<略歴>

1980年 早稲田大学政治経済学部卒業

1984年 同大学院経済学研究科博士前期課程修了(国際経済論専攻)

1987年 (株)長銀総合研究所入社

1996年 在ウクライナ日本大使館専門調査員

1999年 帰任、退社。トヨタ自動車(株)入社

2004年 ロシアトヨタ社長、兼モスクワ駐在員室長

2009年 帰任後、BRロシア室長、海外渉外部主査などを経て

2012年 (株)国際経済研究所取締役・理事、シニア・フェロー

2018年 (合社)N&Rアソシエイツ設立、代表就任

著書・寄稿

  • 最新著書

    ユーラシア・ダイナミズム-大陸の胎動を読み解く地政学

    ミネルヴァ書房、2019年10月刊行

    目次

    関係地図
    はしがき-動態的ユーラシア試論
    序 説 モンゴル草原から見たユーラシア
    第一章 変貌するユーラシア
    第二章 シルクロード経済ベルトと中央アジア
    第三章 上海協力機構と西域
    第四章 ロシア、ユーラシア国家の命運
    第五章 胎動する大陸と海の日本
    主要参考文献
    あとがき
    索 引

  • 著 書

    通貨誕生-ウクライナ独立を賭けた闘い

    都市出版、1994年

    目次

    はじめに
    序 章 ウクライナとの出会い
    第一章 ゼロからの国づくり
    第二章 金融のない世界
    第三章 インフレ下の風景
    第四章 地方周遊~東へ西へ
    第五章 ウクライナの悩み
    第六章 通貨確立への道
    第七章 石油は穀物より強し
    終 章 ドンバスの変心とガリツィアの不安
    後 記
    ウクライナ関係年表

  • 寄 稿

    ユーラシアの静かなダイナミズムと海の日本

    未来を創る財団『みらい』2020年3月号

    記事を見る

  • 寄 稿

    ロシア、北の大国からの視界-中国と連携しつつ欧州との関係改善を模索

    時事通信Janet・e-world 2020年1月7日

    記事を見る

  • 寄 稿

    大国の内政に巻き込まれるウクライナ-元コメディアンの新大統領が直面する試練

    時事通信Janet・e-world 2019年10月30日

    記事を見る

  • 寄 稿

    連載:ユーラシア・ダイナミズム-中国とロシア、そして胎動する大陸

    ミネルヴァ通信『究』2017年4月号~2019年5月号

  • 寄 稿

    プーチン再選とユーラシア国家の命運

    『世界』2018年3月号

  • 寄 稿

    モスクワから見た日ロ交渉

    『世界』2016年9月号

  • 寄 稿

    対談:ウクライナの安定へ-世界を動かす日本外交の役割とは何か

    東郷和彦氏との対談、『世界』2014年10月号

  • 寄 稿

    誰にウクライナが救えるか

    『世界』2014年5月号

  • 寄 稿

    ロシア極東開発の地政学

    『世界』2013年3月号

  • 寄 稿

    さらばキエフ、さらば長銀

    『中央公論』1999年1月号

  • 寄 稿

    Considering Russia’s Future

    “Japan SPOTLIGHT” May/June in 2018, Japan Economic Foundation

研究調査

ロシア、ウクライナ研究をオリジナル・グラウンドとし、 ユーラシア全体をキャンバスとする広域的なテーマを中心に、
(株)国際経済研究所に所属して実践的な研究調査をおこなっています。

講 演

"陸と海の地政学"をキーコンセプトとして、ユーラシアの2大国、ロシアと中国の関係を軸に、アフターコロナの世界と日本について積極的に講演活動をおこなっています。

"陸と海の地政学"をキーコンセプトにして、ユーラシアの2大国、ロシアと中国の関係などを中心に、アフターコロナの世界と日本について積極的に講演活動をおこなっています。
2021年は内外情勢調査会(3月15日)からスタートする予定です。

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西谷 公明

合同会社 N&R アソシエイツ 代表

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